別ホストの Linux の Docker を使う方法

私は仮想マシン上の Windows 10 の WSL から Ubuntu Linux 18.04 のホスト上で動いている Docker を使うように設定しましたのでこのあとの記事の書き方はその環境が前提の書き方になっていますが、Windows仮想マシンである必要はなく、同じネットワーク内の別ホストであれば Windows である必要すらなく、Mac や他の Linux などからも使うことができると思います。

また、WSL の場合は WSL 自体に直接 Docker を入れることもできるようなのですが、ネット上で見つけたいくつかの方法は私が試したところいずれもうまく行きませんでした。Windows をそもそも仮想環境で動作させているためかもしれません。というわけで WSL に Docker を入れるのは諦めました。

Docker for Windows を入れてみても良かったのですが、これもやはりもともと仮想環境な Windows 上に更に仮想環境を作ることになりそうだったのでうまく動くかどうかわからなかったことと、せっかくホスト OS が Linux なのでそこでコンテナを動かせばよいではないかと思い、その方法を調べたところ非常に簡単だったのですが、将来の自分のためにメモしておこうという感じです。

大まかな手順は以下のとおりです。

  1. ホスト OS (Ubuntu Linux) 側で Docker の起動時オプションを変更して、TCP でもリモート API サーバーをホストする
  2. ゲスト OS (Windows 10 WSL) 側で DOCKER_HOST 環境変数を使ってホスト OS の Docker を使うようにする

これだけです。(実際には WSL に docker コマンドをインストールしたりしたかもしれません。)

注意していただきたいのは、この方法だとホストの Docker がネットワークに公開されることになりますので、セキュリティ面では十分に気をつける必要があります。 (信頼できるプライベートなネットワークにしか接続されないようにするとか、もしくはネットワークアクセス制御などを適切に適用して意図しないアクセスを受け付けないようにするなどの対策を講じる必要があります)

1. ホスト OS (Ubuntu Linux) 側で Docker の起動時オプションを変更して、TCP でも API サーバーをホストするようにする

まずはホスト OS 側で以下のコマンドを実行して現在の設定を取得します。Ubuntu 18.04 では以下のファイルでしたが、他のバージョンでは違う場所にファイルがあるかもしれません。

sudo grep ExecStart /lib/systemd/system/docker.service

私の環境では以下のように表示されました。

ExecStart=/usr/bin/dockerd -H fd:// --containerd=/run/containerd/containerd.sock

この表示された内容をコピーしておきます。

次に、以下のコマンドを実行します。これは systemd の既存の unit ファイルに対して適用するための差分のファイルを生成するコマンドです。

sudo systemctl edit docker

エディタが起動しますので、先程コピーした内容を貼り付け、さらにその行に -H tcp://0.0.0.0:2375 を追加します。(Docker の API サーバーを TCP で指定のアドレス/ポートでホストするというオプションです。既存の別の -H オプションが存在しますが、その後ろあたりに追加すると良いでしょう) また、その行の前に以下のように2行追加します。

[Service]
ExecStart=
ExecStart=/usr/bin/dockerd -H fd:// -H tcp://0.0.0.0:2375 --containerd=/run/containerd/containerd.sock

真ん中の行の ExecStart= だけの行は決して間違いではありません。 このように書くことで、既存の ExecStart の設定を上書きすることができます。

保存して閉じたら、以下のコマンドを実行して Docker を再起動し、設定の変更を適用します。

sudo systemctl restart docker

ここまででホスト側の準備は完了です。

2. ゲスト OS (Windows 10 WSL) 側で DOCKER_HOST 環境変数を使ってホスト OS の Docker を使うようにする

ゲスト OS (Windows 10 WSL) で以下のコマンドを実行してみます。

DOCKER_HOST=tcp://192.168.1.234:2375 docker ps -a

192.168.1.234 の部分はホスト OS の IP アドレスに置き換えてください。

これでエラーにならずにホスト上で実行されているはずのコンテナの一覧が表示されたら成功です! (事前にホスト上で docker run hello-world などを実行しておくとわかりやすいかもしれません)

毎回 DOCKER_HOST を指定するのが面倒なので .bashrc あたりに以下のような設定を書いておくと良いでしょう。

export DOCKER_HOST=tcp://192.168.1.234:2375

なおポート番号の 2375 は Docker デーモンの暗号化されていない API サーバーで慣習的に使われているポート番号のようですが、他の値に変えても大丈夫です。

Docker

Docker

AWS アカウントから IAM の SSL サーバー証明書を撲滅した話

HTTPS でアクセス可能な API などの Web サービスを構築する場合、サーバー証明書が必要になります。

AWS の場合は現在は ACM (AWS Certificate Manager) を使うことで、自動更新される証明書を無料で発行できますので完全にそちらを使っているのですが、ACM 登場以前は他社から購入した証明書を AWS の IAM に登録してそれを利用しなければなりませんでした。 (EC2 で自前の Web サーバーを用意する場合は IAM に登録する必要はありませんが、ここではサービスのスケールアウトを考慮して CloudFront や ELB などを使う場合を想定しています。)

しかしたいていの証明書には有効期限というものがあり、しかしながら IAM に登録した証明書は ACM の証明書のように自動更新というわけにはいかないので、手動で更新していく必要があります。(更新するついでに ACM の証明書にしてしまうのがいいですね。)

IAM に登録した証明書は、CloudFront と Elastic Load Balancer (ELB) で利用可能ですが、たとえば API Gateway でカスタムドメインを使うと CloudFront 経由で証明書が利用できたり、Elastic Beanstalk も Load balancer を使う設定にしていると ELB 経由で証明書を利用する設定にできます。

私が把握しているのはこの 4 つのサービス(CloudFront、ELB、API Gateway、EB)のみですが、もしかしたら他にも IAM の証明書を使うことができるサービスがあるかもしれません。

さらに、一つのアカウントの中で複数のリージョンにまたがってそれらのサービスを使用して IAM の証明書を用いているという場合も考えられますし、場合によっては複数のアカウントを使いこなしているかもしれません。

そのような場合に、どこで IAM の証明書を使っているかをすべて手作業で列挙するのはなかなか難しいと思います。

そこでスクリプトを書いて aws コマンドを駆使して IAM の証明書を見つけ出してみました。

Detects if any IAM cert is used in the specified A ...

実行方法ですが、

$ ./iam-cert-check.sh <profile> ...

という具合に、aws コマンドで使うプロファイル名を指定します。(複数指定可能です)

これでいろいろな環境の IAM 証明書の使用の有無を一度にチェックできます。(もちろんそのプロファイルに十分な権限を与えておく必要はあります)

もしかしたらスクリプトにバグがあって IAM 証明書の存在を見逃している可能性も否定できませんので、ご利用は自己責任でお願いします。 また、今回チェック対象にした 4 つ以外のサービスでも IAM 証明書が使われている可能性がある場合はお知らせいただけると嬉しいです。

このスクリプトを利用して検出したすべての IAM の証明書を ACM の証明書に切り替えたら、あとは IAM の証明書を削除します。

aws iam delete-server-certificate --server-certificate-name <name> --profile <profile>

このコマンド、証明書をどこかで利用中でも容赦なく削除できてしまうそうなので十分な注意が必要です。 (AWS コマンドのリファレンスにその旨の警告があり、それで怖くなって調べていたらいつの間にか今回のスクリプトが出来上がっていましたw)

いったん ACM の証明書に切り替え終わると、後は条件を満たしていれば自動更新されるので安心ですね。

なお、ACM の証明書でも、自動更新の条件を満たしていない証明書があったときのことを考え、弊社では毎日一回 ACM の証明書の有効期限を自動でチェックして Slack に結果を通知しています。未使用の証明書などを削除するきっかけになるのでこれも役に立っています。 機会があればそちらのコード(Lambda 上で動く Go のプログラム)もご紹介しようかと思います。

Go 1.11 のバグと DNS の障害の合わせ技でハマった件

Go で書いたプログラムで、HTTP(S) による通信を行うとなぜか10秒間プログラム (goroutine) がストールして、その後正常に通信が行えるという謎な現象に悩まされ、無事解決できたのでここにメモしておきます。

といっても、解決のためにやったことといえば、Go のバージョンを 1.11.1(バグが修正されたバージョン)に上げただけなのですが😅

「同様の問題にハマっている人が多いみたいなので知見を共有すればよいのでは」という同僚の id:moznion のすすめもあって書いてみることにしました。

TL;DR

問題の内容と、解決に至るまでの経緯を時系列順に書き下してみます。

まず問題に気づいたのは、私が関わっているある Web サイトのログインなどの処理がやけにもっさりしているという報告を受け、それを私も確認したタイミングです。 エラーになるわけではないのですが、特定の API を呼ぶタイミングで、毎回 10 秒くらい待たされてしまうようになっていました。

ブラウザでデベロッパーツールを開いてみると、問題の API が毎回 10 秒ちょうどくらいでレスポンスを返してきていることに気づきました。正常時は数十 msec でレスポンスが返ってきますので、これは明らかにおかしいと思いました。しかも、「10秒かかるときもあれば15秒くらいなときもあれば8秒くらいなときもある」というような、バックエンドに負荷がかかったりしていることに起因しているような感じではなくて、常に 10.xxx 秒のレスポンスタイムでした。

その不調になっている API のサーバーは私が Go で構築して AWS 上で運用していたものでしたので、新しいインスタンスを立ち上げてそちらに最新版をデプロイし切り替えた時点でユーザー様から見える問題はすぐに回復しました。(ログインなど API を呼ぶ部分で 10 秒もかからなくなりました)

しかし原因究明をしないと不安だったので、不調だった方の API サーバーはサービスから切り離しましたがそのままアクセスはできる状態で残しておきました。

当初は、サービスの負荷が原因かと思ったのですが、サービスから切り離して負荷がほぼゼロの状況でも API 呼び出しに 10 秒かかるという問題は解決しませんでした。 この時点で、負荷が原因という説は否定されました。

API サーバーのログを確認すると、Redis (Elasticache) に接続しに行く部分の前後でタイムスタンプに 10 秒のラグがあるようでした。

そこで Elasticache もしくは AWS 上のネットワークの不調などを疑ったのですが、API サーバー上のシェルから curl コマンドなどで Redis に接続しにいってもまったく問題なく一瞬で繋がりますし、redis-cli でのコマンドのレスポンスにも全く問題がありませんでした。

Elasticache のイベントログ等を見ても、何日間もまったく問題なく動いているようでした。

Redis クラスターの DNS 名の解決も、dig コマンドなどで一瞬で解決できます。

ということで、どこで時間がかかっているのか、まったくわからなくなってしまいました。

こうなると、怪しいのは Go のプログラム自体です。

Redis のクライアントとしては redigo を使っていますが、こちらの redis.Dial() 関数の呼び出しで 10 秒かかっていることまではわかったのですが Issue などを探しても同様の問題は報告されていないようでした。

Dial() の内容としては基本的には名前解決をしてソケットを開いているだけだと思ったので、名前解決の部分がおかしいのかと思い、困り果てて golang dns slow みたいなやけっぱちな検索ワードで検索してみたところ奇跡的に引っかかったのがこちらの Go 本体の Issue でした:

github.com

この Issue 自体は 2017 年 9 月にレポートされたもので、 Go 1.8 とか 1.9 の問題だったので、Go 1.11 を使っていた私には関係ないか、、、と思いつつもスレッドを読んでいったところ、今年の8月29日に「Go 1.11 で DNS の名前解決が 10 秒かかる」という、私とまったく同じ症状を訴えている人がいました。

https://github.com/golang/go/issues/21906#issuecomment-416809879

dig など他のツールでは一瞬で名前解決できる、という点も私の症状と同じでした。

で、その Issue は

https://github.com/golang/go/issues/27525

に引き継がれ、以下のコミットで修正されたようでした。

https://github.com/golang/go/commit/94f48ddb96c4dfc919ae024f64df19d764f5fb5b

結論としては、Linux 上で /etc/resolv.conf に書かれた nameserver のうち壊れたものが一つでもあると 10 秒かかるようになってしまっている、ということのようでした。

問題が起こった環境を見てみると、 /etc/resolv.conf に書かれた nameserver が 3 つあり、そのうちの一つで障害が起きており、応答が返ってこない状態になってしまっていました。

また、問題発生時に新しくデプロイし直して復旧した方のバージョンは確実に 1.11.1 でビルドしたもので、同じ nameserver を参照しているにもかかわらず 10 秒の遅延は発生しておりませんでしたので、あとは問題が起こっている方のバイナリが 1.11 でビルドされたものであることが確認できれば、ほぼ確実にこのバグにより引き起こされた問題ということができると思いました。

ということで、問題が起きた方のバイナリをコンパイルした Go のバージョンを調べてみることにしました。

コンパイル済みのバイナリから、そのバイナリをコンパイルした Go のバージョンを調べるには、以下の Dave Cheney 氏の記事が参考になります。

How to find out which Go version built your binary | Dave Cheney

すなわち、gdb で実行中のプロセスにアタッチもしくは新規プロセスを起動して、runtime.buildVersion という定数の値を表示してみれば良いわけです。

障害が起こったほうでは

(gdb) p 'runtime.buildVersion'
$1 = {str = 0xa33954 "go1.11gophergrave;gsime;gsiml;gtcir;gtdot;hangupharrw;hcirc;headerhealthheartsheighthelliphiddenhoarr;iacuteicirc;iexcl;ignoreigraveiiint;iiota;ijlig;imacr;image;imath;imped;infin;iogon;ip+netiprod;iq"..., len = 6}

と表示されましたので、 len = 6 ということで先頭から6文字分を読みます。するとgo1.11 ですね。

新しくデプロイした方は

(gdb) p 'runtime.buildVersion'
$1 = {str = 0xa38fb9 "go1.11.1gtquest;gtrless;harrcir;hijackedhostnamehreflanghttp/1.1iam/infoidentityif-matchif-rangeinfinityintprod;invalid isindot;languagelarrbfs;larrsim;lbrksld;lbrkslu;ldrdhar;lesdoto;lessdot;lessgtr;"..., len = 8}

ということで go1.11.1 です。

どうやらビンゴのようです。

ということで、Go 1.11.1 でビルドしてデプロイした現在のバージョンはこのまま問題なく稼働できそうということがわかり一安心です。

ただ、Elasticache へのアクセスは明示的にタイムアウトを設定して、異常時にももうちょっと早めにキャッシュを利用しない処理にフォールバックできたほうがよいように思いましたのでその点は修正する必要がありそうです。

まとめ

たしかコードコンプリートあたりに「プログラマはすぐ『コンパイラのバグじゃないか?』と疑いがちだけど、99%以上の場合は自分のコードのバグだ」みたいなことが書いてあったと思いますし私もしょっちゅう処理系を疑ってはブーメランが飛んできて自分のコードが良くないことを発見するのですが、今回はほんとに処理系のバグでした。

あと、DNS の障害が引き金になって起こるというレアなケースだったので調査に苦労しましたが原因を見つけることができたときはとても痛快でした。

これだからプログラマーはやめられませんね。

CO2 濃度を測ってみた 〜SORACOM Harvest と Wio LTE ならとってもかんたん!〜

2018年4月26日に SORACOM Technology Camp が開催されました。⛺

ご来場いただいた方はお気づきになられたかもしれませんが、社員が SORACOM のサービスを使って作ったデモが並んでいるコーナーがあったと思います。

これは、「SORACOM を使うとこんなに簡単に IoT のシステムを組めるよ!」という例を見ていただくため、また、お客様はエンジニアの方が中心ということで、「自分も何か作ってみたい」という気持ちを少しでも刺激することができたら、そんな思いで用意したデモでした。

マーケティングチームからエンジニアチームに「デモを作って」という依頼が舞い込んだのが 4 月 9 日でした。

それを受けて、私は以前から個人的にやってみたいと思っていながらも時間がないことを理由にやらずにいた、CO2二酸化炭素)濃度の測定と見える化をしてみることにしました。

なぜ CO2 濃度を測ってみたくなったの?

以下のような記事をたまたま同時期にいくつか読んで、CO2 の濃度が生産性に大きな影響を与えるということを知ったので、まずは自宅の仕事部屋の CO2 濃度が気になったからです。

mirai.doda.jp

また、ソラコムは会議自体が少ない方なのですが、たまに大人数で会議をしていると時間が経つに連れてだんだん生産性が低下していっている気がしていました。(これはソラコムに限ったことではなく、過去の勤め先などでの会議でとても身に覚えのあることです)

これまでは、単に疲れて集中力が途切れるせいかと思っていましたが、実は会議スペースの CO2 濃度にも何か因果関係があるのではないだろうか、もしあるとしたら会議のときに CO2 濃度を測定しておいて濃度が高まってきたら早めに換気を促すなどの対策を取れば、多少は会議の生産性の低下に抵抗しうるのではないか、そんな思いが生じたからです。

なぜ買ってこないで作るの?

作りたかったからです。エンジニアの端くれなので、仕方ないですよねぇ。

というのは半分冗談として。

たとえば市販品で以下のような物があります。

探せばもっと安いものもあるかもしれませんが、1万円超えというのはちょっと試しに買ってみるには高い感じがします。

一方、ふと気づくと自分の手元にはすでに Wio LTE がある・・・(こちらも1万円超え*1ですが、これはいろいろな目的に使えるので、と自分に言い訳)

Wio LTE JP Version

Wio LTE JP Version

Wio LTE の Grove コネクタに接続できる CO2 センサーを買ってきてつなぎ、あとは SORACOM Harvest にデータを投げればサクッと目的が達成できるのではないか、なぜもっと早くやらなかったんだろうと後悔しました。

早速 Grove システム対応の CO2 センサーを検索して見つけたのがこちら:

www.seeedstudio.com

あれあれ?

・・・思ったより・・・高いぞ・・・😨

そんなことを社内の Slack でつぶやいた時に教えてもらったのがこのあたりの記事:

MH-Z19 という格安 CO2 センサを読んでみた | tech - 氾濫原

ArduinoでCO2濃度を計測する(MH-Z19) - はらぺこらいおん

ふむふむ。MH-Z19 というセンサーを Aliexpress で購入すればよいのか。

Aliexpress で探してみると、20 ドルくらいで買えそうなものを見つけました。 (ただし型番は MH-Z19 B と いうもの)

用意したもの

接続

まず MH-Z19B を動作させるための配線を行いましょう。

VIN には 5V を供給する必要があります。

しかし、ここでいきなりつまづきます。Wio LTE から Grove コネクタ経由で供給される電圧は 3.3V なのです。

仕方ないから昇圧させるか・・・とも思いましたが、ふと USB バスパワー(VBUS)があることに気づきました。

Wio LTE回路図 を見てみると、VBUS が TP として出ていそうです。

f:id:bearmini:20180427131058p:plain

TP13 は、Wio LTE の基板のこのあたりのようです:

f:id:bearmini:20180427162710p:plain

(マイクロ USB コネクタのすぐ裏の、4つ並んでいる金属の丸い端子のうち、上の写真の状態では一番下のもの)

ここからセンサーに電源を供給できるかなと思ってジャンパー線をはんだ付けしようとしたのですが、写真をご覧いただいておわかりかもしれませんが私の技量ではうまく行かず断念しました。

それで結局どうしたかというと、もう一本別の USB ケーブルを用意して、VBUS だけを直接取り出すことにしました。

ということで、「不要な USB ケーブル」の出番です。電源供給元に挿すのは USB A のオスの方なので、そうでない方のコネクタを切り落とします。

次に、切り落とした部分から1cmくらいをワイヤーストリッパーで外側の被覆を剥くと、中から線が4本出て来るはずです。 どの線が VBUS かをテスターなどで調べましょう。 私が剥いたケーブルはちゃんと VBUS が赤、GND が黒だったので分かりやすかったです。 ネットでは、安物のケーブルでは赤黒が逆だったケースなどが報告されているので気をつけましょう。

VBUS / GND それぞれのケーブルもさらに数mm分の被覆を剥いて、中の金属線をむき出しにします。 私の使ったケーブルは撚り線になっていたので、ブレッドボードに挿しやすいようにジャンパー線にはんだ付けしました。 VBUS と GND がショートすると危険なので必ず絶縁しておきましょう。

私の場合はこのようなケーブルが出来上がりました:

f:id:bearmini:20180427162832p:plain

(熱収縮チューブの径が合ってないのが残念なところ・・・)

この USB ケーブルと MH-Z19B を、ブレッドボードを使って接続します。

f:id:bearmini:20180427163510p:plain

次に Wio LTE と MH-Z19B を接続します。

f:id:bearmini:20180427164348p:plain

Wio LTE 側のコネクタは D38 と書かれたコネクタを使います。(D38 はスケッチで明示的に ON にしなくてもデフォルトで ON になるそうです)

Grove ケーブルの黄色い線を MH-Z19B の PWM に接続します。 Grove ケーブルの黒い線を GND につなぎます。 赤の線と白の線は使いません。

あとは Wio LTE にスケッチを書き込んで、SORACOM Harvest へデータを投げ込めばデモの完成です。 スケッチ例はこの記事の末尾に載せておきます。 やっていることは単純で、センサーから出力される PWM の ON の時間と OFF の時間(トータルで約1秒)を読み取って、比率に応じて ppm の値に換算、それを1分間の平均値を取って毎分 Harvest に UDP で送信するのみです。

なお今回のデモでは、このような 2 又の USB ケーブル を使って、1つのモバイルバッテリーから Wio LTE と MH-Z19B へ給電しました。

f:id:bearmini:20180427165129p:plain

当日の展示の様子

f:id:bearmini:20180427165301p:plain

まとめ

会場に設置当初は 450ppm 程度で推移していました。 息を吹きかけるとグラフは急峻な立ち上がりを見せ、しばらくすると元の水準にもどっていました。 セッションの合間の人が多い時間帯は少し ppm 値が高くなり、セッションが始まって人が少なくなると ppm 値も下がっていくという挙動を観測することができました。

今度は社員が集まるミーティングなどで実際に稼働させてみたいと思います。

また、他のエンジニアのみなさんはそれぞれ Wio LTE をケースに入れていたので私も何かのケースに収めてみたいなと思いました。

SORACOM Harvest は本当に簡単で、設定することと言えば SIM のグループで Harvest を ON にするだけです。 それで雑にデータを投げ込むとグラフにしてくれたりするという超絶スグレモノです。サーバーサイドの設定が不要で、これはもうチートと言っても過言ではないくらいプロトタイピングが加速されます。 デバイス側の工夫などに、より時間を使うこともできるようになりますよね。

しかも!SORACOM Harvest で蓄積したデータがあると、SORACOM Kaleidoscope を楽しむこともできるのです! これはまさに一石二鳥!

結論: SORACOM Harvest 最強すぎる

スケッチ

#include <WioLTEforArduino.h>
#include <stdio.h>

#define ARRAY_LENGTH(a) (sizeof(a) / sizeof(a[0]))

#define PWM_PIN    (WIOLTE_D38)

WioLTE Wio;

typedef struct hist {
  int v;
  unsigned long t;
} pwm_history;

pwm_history h[3];

float ppm_history[60];

unsigned long last_report_timestamp = 0;


void setup() {
  delay(200);
  Wio.LedSetRGB(16, 0, 0);

  SerialUSB.println("");
  SerialUSB.println("--- START ---------------------------------------------------");

  SerialUSB.println("### I/O Initialize.");
  Wio.Init();

  SerialUSB.println("### Power supply ON.");
  Wio.PowerSupplyLTE(true);
  delay(5000);

  Wio.LedSetRGB(16, 16, 0);

  SerialUSB.println("### Turn on or reset.");
  if (!Wio.TurnOnOrReset()) {
    SerialUSB.println("### ERROR! ###");
    return;
  }

  Wio.LedSetRGB(4, 4, 16);

  SerialUSB.println("### Connecting to \"soracom.io\".");
  delay(5000);
  if (!Wio.Activate("soracom.io", "sora", "sora")) {
    SerialUSB.println("### ERROR! ###");
    return;
  }

  Wio.LedSetRGB(0, 16, 0);

  delay(5000);

  Wio.LedSetRGB(16, 16, 16);

  pinMode(PWM_PIN, INPUT);
}

void loop() {
  int v = digitalRead(PWM_PIN);
  unsigned long t = micros();

  if (v != h[2].v) {
    pwm_push_history(v, t);
  }


  //SerialUSB.println("h[0]{ v = " + String(h[0].v) + "}, t = " + String(h[0].t) + ", h[1]{ v = " + String(h[1].v) + ", t = " + String(h[1].t) + "}, h[2]{ v = " + String(h[2].v) + ", t = " + String(h[2].t) + "}");

  if (pwm_one_cycle_completed()) {
    unsigned long th = h[2].t - h[1].t;
    unsigned long tl = h[1].t - h[0].t;
    pwm_init_history();

    float ppm = 5000 * (th - 0.002) / (th + tl - 0.004);
    ppm_push_history(ppm);

    SerialUSB.println("th = " + String(th) + ", tl = " + String(tl) + ", PPM = " + String(ppm));
  }  
}

void pwm_init_history() {
  for (int i = 0; i < ARRAY_LENGTH(h); i++) {
    h[i].v = HIGH;
    h[i].t = 0;
  }
}

bool pwm_one_cycle_completed() {
  return h[0].v == LOW && h[1].v == HIGH && h[2].v == LOW;
}

void pwm_push_history(int v, unsigned long t) {
  for (int i = 0; i < ARRAY_LENGTH(h) - 1; i++) {
    h[i].v = h[i+1].v;
    h[i].t = h[i+1].t;
  }
  h[ARRAY_LENGTH(h) - 1].v = v;
  h[ARRAY_LENGTH(h) - 1].t = t;
}

void ppm_push_history(float ppm) {
  for (int i = 0; i < ARRAY_LENGTH(ppm_history) - 1; i++) {
    ppm_history[i] = ppm_history[i + 1];
  }
  ppm_history[ARRAY_LENGTH(ppm_history) - 1] = ppm;

  unsigned long now = millis();
  if (last_report_timestamp + 60 * 1000 < now) {
    float avg = get_average_ppm();
    post_to_harvest(avg);
    last_report_timestamp = now;
  }
}

void post_to_harvest(float ppm) {
  SerialUSB.println("### Open.");
  int connectId = Wio.SocketOpen("harvest.soracom.io", 8514, WIOLTE_UDP);
  if (connectId < 0) {
    SerialUSB.println("### ERROR! ###");
    goto err;
  }

  SerialUSB.println("### Send.");
  if (!Wio.SocketSend(connectId, String(ppm).c_str())) {
    SerialUSB.println("### ERROR! ###");
    goto err;
  }

  SerialUSB.println("### Receive.");
  int length;
  char data[100];
  do {
    length = Wio.SocketReceive(connectId, data, sizeof (data));
    if (length < 0) {
      SerialUSB.println("### ERROR! ###");
      goto err;
    }
  } while (length == 0);
  SerialUSB.print("Receive:");
  SerialUSB.print(data);
  SerialUSB.println("");

  SerialUSB.println("### Close.");
  if (!Wio.SocketClose(connectId)) {
    SerialUSB.println("### ERROR! ###");
    goto err;
  }

err:
  return;
}

float get_average_ppm() {
  float sum = 0;
  for (int i = 0; i < ARRAY_LENGTH(ppm_history); i++) {
    sum += ppm_history[i];
  }
  return sum / ARRAY_LENGTH(ppm_history);
}

*1:SORACOM User Console では定価は 9,800 円ですが、税や送料を考えると1万円を超えます

SORACOM を使って学ぶ AT コマンド - 3. 実践編

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この記事の内容をまとめてさらにアップデートした内容で「SORACOM で学ぶ AT コマンド入門」という本(電子書籍)にしました。

zenn.dev

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準備編では ATI コマンドを実行してみました。

モデムを使ってダイヤルアップ接続をしてデータ通信を行うことができるようになるには、いくつかの AT コマンドを組み合わせて実行していく必要があります。

とはいっても、どこから手を付けたらいいかわからないので、まずは SORACOM が公開している、SORACOM Air でインターネットに接続するためのスクリプトを読み解いてみましょう。

SORACOM が実施しているハンズオンセミナーの資料が GitHub にて公開されています。 https://github.com/soracom/handson/blob/master/setup/setup.md#3-0

こちらの「接続スクリプトのダウンロード」というところからリンクされているスクリプトを見てみましょう。

途中に

Init1 = ATZ
Init2 = ATQ0 V1 E1 S0=0 &C1 &D2 +FCLASS=0
Init3 = AT+CGDCONT=1,"IP","$2"

というような部分が見つかると思います。

これは、wvdial の設定ファイルの内容ですが、ダイヤルアップ接続時にはここに記載されている AT コマンドを一つずつ実行していっているようなイメージとなります。

以下、各コマンドの説明をしていきますが、皆様も是非実際に手を動かしてコマンドを実行してみてください。

ATZ コマンド

では、まず最初の ATZ コマンドは何のためのコマンドでしょうか。 ITU-T Rec. V.250 6.1.1 によると、モデムの設定をデフォルト状態に戻すためのもののようです。

つまり、モデムをいったんまっさらな状態にしているわけですね。 もしモデムを使って接続中(データ通信中)に ATZ コマンドを実行するとその接続は切断されるようです。

ATQ コマンド

つづいては ATQ0 V1 E1 S0=0 &C1 &D2 +FCLASS=0 という行を見ていきます。 長いコマンドに見えますが、実はこれは半角スペースごとに別の AT コマンドが続いています。 つまり、ATQ0 V1 E1 S0=0 &C1 &D2 +FCLASS=0

ATQ0
ATV1
ATE1
ATS0=0
AT&C1
AT&D2
AT+FCLASS=0

という複数のコマンドを連続で実行したのと同じことになります。

ちなみに、基本コマンドは空白で区切らずに ATQ0V1E1S0=0&C1&D2 という感じにつなげて実行することもできます。

まずは最初の ATQ0 を見ていきましょう。 これは ITU-T Rec. V.250 6.2.5 によると、モデムが返す結果コード(OK とか ERROR とか)を抑制するかしないかを指定するコマンドです。

ATQ0 は抑制しない(結果コードが表示される)ようにします。 抑制したい場合は ATQ1 を実行します。

もし工場出荷時のデフォルトで結果コードを抑制する設定になっているようなモデムがあったとすると、コマンドの実行が成功しても失敗しても結果コード(OKERROR など)が何も表示されなくなってしまって問題の切り分け等が難しくなってしまうので、ATQ0 で確実に結果コードが表示されるようにしているのだと思います。

ATV コマンド

続いて V1 の部分です。 これは、ITU-T Rec. V.250 によると、モデムからのレスポンスのフォーマットを選択します。

ATV0 および ATV1 が実行可能です。

それぞれの意味は、コマンドの実行例を見てもらったほうが早いと思います。

まず ATV0 を実行してから ATI を実行した場合は、以下のような結果になります。

Manufacturer: huawei
Model: MS2131
Revision: 21.751.19.00.00
IMEI: 86610xxxxxxxxxx
+GCAP: +CGSM,+DS,+ES
0

ATV1 を実行してから ATI を実行すると、以下のようになります。

ATV1
OK
ATI
Manufacturer: huawei
Model: MS2131
Revision: 21.751.19.00.00
IMEI: 866109028769760
+GCAP: +CGSM,+DS,+ES

OK

ATV0 のときと ATV1 のときの違いは以下のような点です。

  • ATV0 のときはコマンドを入力した行に上書きされるような形で結果が表示される。ATV1 のときはコマンドを入力した次の行から結果が表示される
  • ATV0 のときは ATI コマンドの最後の結果コードが数値(0OK と同じ意味)。ATV1 のときは OK と文字列で表示される
  • ATV0 のときは結果の数値の前に空行が入らない。ATV1 のときは結果コードの前に1行空行がある。

通常は ATV1 を設定しておいたほうが(人間にとって)読みやすくて良いでしょう。

ATE コマンド

つづいては E1 です。

これは ITU-T Rec. V.250 6.2.4 によると、モデムに送った AT コマンドの文字列をモデム側からエコーバックするかどうかを決めるコマンドです。

ATE0 ではエコーバックしない、ATE1 ではエコーバックする設定です。

screen で AT コマンドを試してみる際にはエコーバックがないと辛いので ATE1 を設定しておいたほうが良いでしょう。

ATS0 コマンド

つづいては S0=0 です。

ITU-T Rec. V.250 6.3.8 によりますと、これは電話がかかってきた際に何回の呼び出し音の後に自動応答をするかを決めるコマンドです。

ATS0=0 は自動応答しない設定です。

AT&C コマンド

続いては &C1 です。

ITU-T Rec. V.250 6.2.8 によると、"Circuit 109" の挙動を設定します。

"Circuit 109" とは、接続先からのキャリア信号を受信したこと(≒接続先に接続できたこと)を、DCE(≒モデム)が DTE(≒ユーザープログラム等)に伝えるための信号線の名前です。"Received Line Signal Detector" とか "DCD" と呼ばれたりもします。

AT&C0 では、接続できているかどうかに関わらず Circuit 109 が "ON" 状態になります。 AT&C1 では、接続状態に応じて Circuit 109 の状態が変化します。

通常は &C1 に設定しておきます。

AT&D コマンド

続いては &D2 です。

ITU-T Rec. V.250 6.2.9 によりますと、"Circuit 108/2" が "ON" から "OFF" になったときのモデムの挙動を設定します。

"Circuit 108/2" とは、DTE(≒ユーザープログラム等)がデータ送受信の準備が整っているかどうかを DCE(≒モデム)に伝えるための信号線の名前です。"Data terminal ready" とか "DTR" と呼ばれたりもします。

つまり、"Circuit 108/2" が "ON" から "OFF" になったということは、ユーザープログラムが終了するなどしてデータ送受信できなくなったことを示し、その際にモデムがどのように振る舞えばよいかを設定することになります。

これには設定可能な値が 3 つあります。

AT&D0 の場合は、モデムは "Circuit 108/2" の変化を無視します。(つまりデータ送受信を継続しようとします) AT&D1 の場合は、モデムは通話は継続したままコマンドモードに戻ります。 AT&D2 の場合は、モデムは通話を終了します。未送信のデータが残っている場合の挙動は +ETBM で設定されたパラメータにしたがって処理されます(モデムが対応している場合)

意図せずプログラムが終了してしまった場合などに接続が継続されてしまうと思わぬ課金が発生したりしてしまうかもしれませんので、ここでは &D2 に設定しているのだと思われます。

AT+FCLASS コマンド

続いては +FCLASS=0 です。

これは入門編でもご紹介したように + で始まっているので拡張コマンドになります。 そして +F なので FAX 関連のコマンドということになりそうです。

ITU-T Rec. V.250 の Supplement 1 (ITU-T Rec. V.250 をダウンロードしたのと同じページからダウンロードできます)を見ると、+FCLASSITU-T Rec. T.31 の 8.2.1 などで規定されているようです。

ということで ITU-T Rec. T.31 をダウンロードして確認してみましょう。

これは "サービスクラス" というものを選択するコマンドのようです。

FAX の送受信は行わず、データ通信のみの場合は +FCLASS=0 を指定するようです。

なお、Huawei MS2131i-8 と L-05A は +FCLASS コマンドをサポートしていませんでした。 (実行すると結果コードが ERROR になります。)

+FCLASS コマンドをサポートしているかどうかは +GCAP コマンドを実行するとわかります。

AT+GCAP
+GCAP: +CGSM,+DS,+ES

OK

ここに +FCLASS が含まれていないので、このモデムは +FCLASS コマンドをサポートしていないようです。

AT+CGDCONT コマンド

さて、長かった ATQ0 V1 E1 S0=0 &C1 &D2 +FCLASS=0 の解説がやっと終わりました。

次は AT+CGDCONT=1,"IP","$2" です。

$2 の部分は、これはシェルスクリプトの関数に渡されてくる引数で、実際には "soracom.io" という文字列になっています。 ですので、このコマンドは実行されるときには AT+CGDCONT=1,"IP","soracom.io" というコマンドとして実行されます。

これも AT の直後が + なので拡張コマンドです。+C なので携帯電話回線の制御のコマンドということがわかります。

ITU-T Rec. V250 Supplement 1 を見ると、+CGDCONT は GSM07.60 という標準で定められているようです。

GSM 07.60 は一般公開はされていないようですが、3GPP TS 27.060 が GSM 07.60 と同じものなので 3GPP のほうを見ましょう。

27.060 の 12.1 には AT コマンドの概要が書かれていますが、詳細なリファレンスは 3GPP TS 27.007 に記述されている旨が記されています。

ということで今度は 3GPP TS 27.007 を参照しますと 10.1.1 に +CGDCONT の定義がありました。

これは "PDP コンテキスト" と呼ばれるものを設定するコマンドです。"PDP" は Packet Data Protocol の略で、要はデータ通信のことです。PDP をするために必要な情報を設定します。

ここでは 1, "IP", "soracom.io" という3つのパラメータを設定しています。 最初の 1 は、コンテキストの ID で、1からいくつかの数が使えます。PDP コンテキストを保存しておくスロットの番号のようなものです。あとでこの設定を参照するためにこの 1 という値を使います。

"IP"PDP タイプというもので、 SORACOM の場合は今のところ "IP" を固定で指定しておけば良いです。

"soracom.io" は APN 名です。

ここまで実行したら、設定が完了しました。

ATD コマンド

設定が完了したらダイヤルアップします。 ダイヤルアップするには ATD コマンドを使用します。

ITU-T Rec. V.250 の 6.3.1 に ATD コマンドの基本的な定義があり、3GPP TS 27.007 の 6.2 には D コマンドが携帯電話回線で使われるときの追加仕様や変更点について少し書かれています。

SORACOM SIM でダイヤルアップするには ATD*99***1# というコマンドを実行します。

これは *99***1# という番号にダイヤルしているのですが、この番号の末尾の # の一つ前にある 1 は、先ほどの +CGDCONT で指定したコンテキスト ID の 1 です。+CGDCONT で異なるコンテキスト ID で複数の設定を保存している場合、ここのダイヤル先番号を変えてどのコンテキストを使うかを選択します。

ATD*99***1# を実行すると CONNECT 21600000 のような応答が返ってくると思います。(モデムの機種によっては数字が表示されたりされなかったりするかもしれません)

この状態で、ダイヤルアップ接続をしてソラコムの認証サーバーとの通信が始まっています。

本当であればここでプロトコルに則ってユーザー名・パスワード(いずれも "sora")を送信したり、IP アドレス情報や DNS サーバー情報を受信したりしてセッション開始となるのですが、screen コマンドで手作業で AT コマンドを実行している今の状態ではそれらのプロトコルを処理することがさすがにできません。

Linux では wvdial コマンドがそのあたりをやってくれて、ppp0 インターフェースを作成してくれたりしてデータ通信ができるようになります。

自作のプログラム等であれば、これまで見てきたような AT コマンドを使って接続したあとにここで認証処理を実施すればデータ通信が行えるようになるはずです。

なお、この状態では screen の画面上で何かキーを打ったりしても反応が無くなります。抜け出すには screen ごと終了する必要があります。

機種依存コマンド

機種によっては、標準で定められていない独自拡張コマンドを使うことで、AT コマンドだけでデータ通信を行うことができるようになるものもあります。

たとえば SORACOM の販売している Quectel 社製の 3G 通信モジュール UC20-G や EC21-J には AT+Q で始まる独自コマンドを使うことによって AT コマンドのみでデータ通信ができるようになっています。 (以前の記事でちらっと解説しています)

そのような機種依存のコマンドについては、メーカーが AT コマンドのリファレンスを提供していると思いますのでそれを参照するのが良いでしょう。

AT+C系の興味深いコマンド

ここからはデータ通信ではないのですが、AT コマンドを使って面白いことができるということをご紹介していきたいと思います。

以下の情報は、機種によってはサポートしていなかったりしますが、使えると有益な情報が得られたりして非常に便利です。

AT+CGREG

これは PS (Packet Switched) ドメイン、すなわちデータ通信用ネットワークへの登録状況を取得するコマンドです。

SIM がモデムに入っている状態で AT+CGREG を実行すると、デフォルトのままだとおそらく以下のような結果が得られるのではないかと思います。

AT+CGREG?
+CGREG: 0,1

OK

という感じの結果が返ってきます。 これの何が面白いのかと思われるかもしれませんが、以下のようにモードを変更してから再度実行すると今度は何やら面白そうな値が取得できます。

AT+CGREG=2
OK
AT+CGREG?
+CGREG: 2,1,"00B0","04AF4173"

OK

このレスポンスを解説しましょう。

まず、AT+CGREG=2 では、この後の AT+CREG? コマンドのモードを変更しています。モードを 2 にすると、AT+CREG? コマンドは GPRS ネットワークへの登録状況の他に、位置情報(基地局の ID やエリアの ID)を返すようになります。

上記で得られたのは "00B0" がエリアコード lac: location area code"04AF4173"基地局 ID(cid: cell id) です。

この情報を、地図上の座標に変換してくれるサービスがあります。 GoogleFirefox なども API を提供しているようですが、ここでは OpenCellID.org というサイトを使ってみましょう。

www.opencellid.org

サインアップは簡単です。名前、メールアドレスを入力し、用途を選択して Submit したら、Token というパスワードのようなものが送られてきますのでそれを使ってサイトにログインします。

ログインしたら、以下のように MCC = 440, MNC = 10, LAC, CID を入力します。 MCC = 440 は日本を表す Mobile Country Code です。 MNC = 10 は日本の中で NTT ドコモを表す Mobile Network Code です。 SORACOM の SIM は NTT ドコモの電波を掴むのでこれらの値を設定します。 LAC と CID は先ほどの AT+CGREG? コマンドで得られた16進数の値を10進数に変換したものです。 (10進数への変換は、MacLinux の場合は printf %d "0x04AF4173" というように printf コマンドを使うと簡単でしょう)

f:id:bearmini:20171203092019p:plain

このときはソラコムの二子玉川オフィスで基地局情報を取得しましたが、オフィスの近くの場所が示されていることがわかると思います。

GPS を搭載していないデバイスでも、基地局の位置情報を使うことで、「だいたいどのあたりにいるか」という感じの大まかな位置情報が利用可能となります。

なお、デバイスや携帯電話会社によってはこの情報を取得できない場合もあるようです。

それから、SORACOM のグローバル SIM を使ってローミングしている場合にも、接続先の国やオペレーター(電話会社)によって取得できたりできなかったりすることもあるようですので、あくまでも「利用できたらラッキー」という位の気持ちで使っていただくと良いでしょう。

AT+CGREG によく似たコマンドで AT+CREGC の後ろに G が入っていない)というのもありますが、こちらは CS (Circuit Switched) ドメイン、いわゆる音声通話や SMS 送受信用のネットワークへの登録状況を取得します。 SIM の種類がデータ通信専用のものだと PS ドメインにしか接続しないので、SORACOM の SIM の場合はとりあえず C の後ろに G が入っている方の、 AT+CGREG を実行しておくと良いでしょう。SMS つきの SIM を使っている場合、 AT+CREG コマンドでも登録状況が取得できるはずです。 逆に他社の SIM でデータ通信をサポートしていない(音声通話のみの)SIM を入れると AT+CREG のみ結果が得られるはずです。

ちなみに、拡張コマンドの多くは AT+XXXX? で現在の値の取得、AT+XXXX=Y で値の設定、AT+XXXX=? で設定可能な値のリストの取得、というような書式になっているものが多いようです。

AT+CSQ コマンド

こちらは、電波の強度(Signal Quality)を取得するコマンドです。 実行してみると、以下のような結果が得られるはずです。

AT+CSQ
+CSQ: 17,99

OK

1799 の2つの数が見えます。

1つめの数は RSSI (Received Signal Strength Indicator) です。 RSSI の値の範囲は 0 〜 31 です。 RSSI の値が 0 の場合は -113 dBm かそれ以下、RSSI の値が 31 の場合は -51 dBm かそれ以上、RSSI の値が 1 から 30 の間の場合は、その値を n とすると、-113 + (n * 2) [dBm] となります。今回の場合 17 なので、-79 dBm という事になります。

2つめの数は BER (Bit Error Rate) です。 BER の値が 0〜7 のときは 3GPP TS 45.008 の 8.2.4 にある表にしたがって導出されるエラーレートであることがわかります。 BER の値が 99 の場合は、ビットエラーが起きたかどうか不明な場合か検出できなかった場合です。

おわりに

入門編準備編、そしてこの実践編と3記事に渡って AT コマンドをいろいろ見てきましたが、いかがでしたでしょうか。 少しでも AT コマンドへの理解が深まったとしたら幸いです。 ここまでの 3 つの記事の内容を理解していれば、大抵の AT コマンドは、ITU-T3GPP、そしてデバイス製造元の発行しているドキュメントを参照しつつ、理解したり使いこなしたりできるようになっているはずです。

今絶賛流行中の Wio LTE も、Quectel 社の EC21-J というモジュールを搭載していてそのモジュールに対して AT コマンドを実行したりできますので、ぜひ試してみてください。

本当は SMS の送受信とかも AT コマンドでできるのでそこまでご紹介したかったのですが、(そろそろ力尽きて来たので)それはまたの機会にとっておきたいと思います。

ちなみに SMS 関連の AT コマンドは 3GPP TS 27.005 に定義されていますので、興味のある読者はぜひ参照してみてください。

SORACOM を使って学ぶ AT コマンド - 2. 準備編

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この記事の内容をまとめてさらにアップデートした内容で「SORACOM で学ぶ AT コマンド入門」という本(電子書籍)にしました。

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前回の記事では、AT コマンドの概要を学びました。

今回は、AT コマンドを実際に実行したりしていろいろ試してみるために、準備を行っていきます。

以下のものを用意しましょう。

  • USB タイプのモデム(Huawei MS2131i-8 もしくは Abit AK-020)
  • SIM カード

モデム Huawei MS2131i-8 は SORACOM のユーザーコンソールでカバレッジタイプをグローバルに変更してからメニューの「発注」ページで購入します。 f:id:bearmini:20171201192750p:plain

こちらの製品は価格が 50 米ドル、送料込で日本円に換算して約7,000〜8,000円程度です(いずれも2017年12月現在)

Abit AK-020 は同じく SORACOM のユーザーコンソールで購入できますが、こちらはカバレッジタイプを「日本」にしてから、メニューの「発注」ページで購入します。

もし SORACOM の SIM カードをまだ持っていない場合は、こちらの AK-020 に SIM カードとクーポン(従量課金のデータ通信量部分に適用可能)がセットになったスターターキットを購入されるとよいかもしれません。

3G USBドングル AK-020 SORACOMスターターキット

3G USBドングル AK-020 SORACOMスターターキット

  • メディア: エレクトロニクス

もし、他の USB 接続タイプのモデムをすでに持っていらっしゃる場合はそちらを使用しても大丈夫かもしれませんが、この記事のこの後のコマンドの実行などの際に文字列を読み替えていただいたりする必要が出てくるかもしれません。

モデムを入手したら、お手元のコンピューター用のデバイスドライバーをダウンロードしてインストールしてください。

Huawei MS2131i-8 の場合はこちらのブログ記事が参考になるかと思います。 https://blog.soracom.jp/blog/2017/11/08/huawei-ms2131i-8/

AK-020 の場合は取扱説明書がついてきますのでその通りにインストールを行います。(Mac の場合は Web サイトから最新版をダウンロードして使う必要があります)

また、コンピューターの USB ポートにモデムを挿して、モデムに付属のダイヤルアップ用アプリケーションなどで正常に接続でき、データ通信ができることも確認しておきましょう。

ここまで確認できたら、AT コマンドを実行できるようにしていきましょう。

macOS の場合

私は macOS 10.12 (Sierra) で動作確認を行いました。

まず、ターミナルを起動して以下のコマンドを実行してみてください。

Huawei MS2131i-8 を使っている場合:

ls /dev/tty.HUAWEIMobile-*

Abit AK-020 を使っている場合:

ls /dev/tty.USB*

注意: 上記以外のモデムを使用している場合や、OS のバージョンが異なる場合はデバイスファイル名が変わるかもしれません。/dev 以下でそれらしい名前のデバイスファイルを探してみてください。 (私が所有している L-05A というモデムの場合は /dev/tty.usbmodem* という感じのデバイスファイル名でした。)

実行すると以下のような 3 つのデバイスファイルが見つかるはずです。

MS2131i-8 の場合:

/dev/tty.HUAWEIMobile-Diag
/dev/tty.HUAWEIMobile-Modem
/dev/tty.HUAWEIMobile-Pcui

AK-020 の場合:

/dev/tty.USB Application Port_
/dev/tty.USB Modem Port_
/dev/tty.Speech Port_

次に、以下のコマンドを実行してみてください。

MS2131i-8 の場合:

screen /dev/tty.HUAWEIMobile-Modem

AK-020 の場合:

screen /dev/tty.USB\ Modem\ Port_

これでモデムに接続できて、ターミナルの画面が真っ黒になった(プロンプトなどの表示が消えた)はずです。 (なお L-05A の場合は screen /dev/tty.usbmodem1411 で接続できました)

接続できたらAT と入力し、Enter を押してみてください。

AT
OK

というように OK というレスポンスが返ってきたら成功です。

つぎに、ATI と入力して Enter を押してみてください。

MS2131i-8 の場合は以下のようなレスポンスがありました。

ATI
Manufacturer: huawei
Model: MS2131
Revision: 21.751.19.00.00
IMEI: 86610xxxxxxxxxx
+GCAP: +CGSM,+DS,+ES

OK

(IMEI はハードウェアの固有の ID ですので念のためマスクしてあります。)

AK-020 の場合は以下のようなレスポンスがありました。

ATI
MTK2
AK-020_V05_20160517

OK

もし反応がない場合は、デバイスファイル名を、さきほど ls コマンドで見つけた他のものに変えて実行してみてください。

なお、screen コマンドを終了するには Ctrl-a k と入力します。(Ctrl-a を押した後、Ctrl キーを離して k を押します。なお、環境によってはコマンドを起動するためのキーの割り当てがデフォルトの Ctrl-a から変更されている場合もあります。その場合はそちらを使ってください)

ちなみに、この ATII という AT コマンドを実行したことになります。

I コマンドは ITU-T Rec. V.250 の 6.1.3 Request identification information に詳しく定義されていますが、モデムを識別する情報を表示するコマンドです。 メーカーや製品のモデル等によってどのような内容が表示されるかが変わります。

モデムによっては、ATI0 といったように、数値を続けて指定することができます。 Huawei MS2131i-8 も AK-020 もともに数値を指定してもレスポンスが変わりませんでしたが、メーカーや機種によっては指定した数値によってレスポンスの内容が変わる場合があるようです。

最後の OK は AT コマンド共通の結果コードで、コマンドの実行が成功したことを示します。 何らかのエラーが起こった場合は ERROR が返ります。

ここまでできたら準備完了です。

次の記事では、いよいよ実践的な AT コマンドを見ていきましょう。

Windows の場合

T.B.D.

Linux の場合

T.B.D.

SORACOM を使って学ぶ AT コマンド - 1.入門編

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この記事の内容をまとめてさらにアップデートした内容で「SORACOM で学ぶ AT コマンド入門」という本(電子書籍)にしました。

zenn.dev

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この記事は SORACOM Advent Calendar 2017 4日目の記事です。

SORACOM の SIM を使っていると、「AT(エーティー)コマンド」というものを取り扱わないといけない場面にたまに出会いますよね。

私は出会います。

AT+CGDCONT=1,"IP","soracom.io"

とかそんな感じのやつです。

この「AT コマンド」が「モデムを制御したり情報を取得したりするためのもの」というのはなんとなく知っているけれど、基本的にはネット上で見つけたのをあまり意味もわからずコピペして使ってたり、コマンドの意味を調べようと思ってもなかなかまとまった情報が見当たらなかったり、そもそも体系的に勉強しようとしてもどこから手を付けたらいいかわからない、、、というような感じの人が多いのではないでしょうか。

私はそうでした。

日本語で書かれた良い入門記事が Web 上に見当たらなかったので、「ないものは作ってしまえ」メソッドで、ちょっと簡単にまとめてみたいと思います。

ツッコミ大歓迎です。

概要

AT コマンドの起源は 1981 年にヘイズ コミュニケーションズ (Hayes Communications) 社の固定電話回線用のモデムに導入された、電話をかけたり切ったりといった電話回線の制御やモデムの設定変更等に使われたコマンドに端を発するそうです。

コマンドの文字列が、皆さんご存知のように “AT” で始まるので日本語ではよく「AT コマンド」と言うと思いますが、英語では「ヘイズ コマンド セット (Hayes command set)」とも言うようです。(英語版の Wikipedia で「AT commands」と検索すると、https://en.wikipedia.org/wiki/Hayes_command_set に転送されます)

その後、モデムを作っていた各社が Hayes の真似をして独自拡張などを入れながら AT コマンドがモデムの制御のためのデファクトスタンダードとして広まっていったようです。

現在は ITU-T 勧告 (Recommendation) V.250(以下、ITU-T Rec. V.250)にて AT コマンドの標準が定められています。

ITU-T Rec. V.250 では、用語の定義、DTE と DCE の間の物理的な接続方法の取り決め、データレート、AT コマンドのシンタックス、多数の基本的な AT コマンドの仕様などが定められています。

ITU-T Rec. V.250 は ITU のサイトから誰でも無料でダウンロードして読むことができます。 https://www.itu.int/rec/T-REC-V.250-200307-I/en

なお、ITU-T Rec. V.250 では AT コマンドは「AT command set」と呼ばれています。そして AT は attention の先頭の2文字である旨も示されています。

携帯電話回線のためのモデムを制御するための AT コマンドの仕様は、ITU-T Rec. V.250 をベースに、3GPP TS 27.007 および 27.005 で標準が定められています。

27.007 および 27.005 は 3GPP のサイトから誰でも無料でダウンロードして読むことができます。 https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=1515 https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=1514

ITU-T Rec. V.250 は PDF で配布されていますが、3GPP TS 27.007 および 27.005 は Microsoft Word 形式のファイルなので読むために対応ソフトが必要です。

この後、上記 3 つのドキュメントをちょくちょく参照することになると思いますのでダウンロードして手元で見られるようにしておくと良いかもしれません。

AT コマンドのシンタックス

ほとんどの AT コマンドは、AT の 2 文字で始まる文字列です。 AT 以外に、直前のコマンドを繰り返す A/ というコマンドもありますが、それ以外は基本的に AT で始まります。

AT コマンドの文字列を何らかの方法でモデムに送信すると、モデムはそのコマンド文字列を解釈して様々な動作を行います。 どうやってモデムにコマンド文字列を送るかについては、モデムにシリアルポートがある場合はそのシリアルポート経由で送信したり、Unix 系の OS では tty が割り当てられたりしますのでそこに送信する場合もあります。

AT コマンドは通常は大文字の AT で始まる文字列ですが、小文字の at も許されているようです。大文字小文字の混在(aT もしくは At)は ITU-T Rec. V.250 では明示的には許可されていないように見受けられましたが、混在した文字列を送信しても問題なく認識してくれるモデムが多いようです。 とはいえ、AT と大文字で書くのが一般的かと思いますので、この記事でも大文字を使います。

AT の次に、アルファベットもしくは記号が続きます。

たとえば ATD というコマンドは電話をかけるコマンドです。 ATD12345678 という AT コマンドを実行すると、12345678 という番号に電話をかけます。

SORACOM SIM を使ってダイアルアップ接続する際には ATD*99***1# というようなコマンドを実行しますが、これは *99***1# という(ちょっと不思議な)番号に電話をかけているということになります。 電話番号として使える文字は、 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 * # + A B C D のいずれかのようです。

*# は電話機のボタン等でも見たことがありますね。

+ は国際電話をかけるときに先頭につけます。

A B C D は何に使うのかよくわかりません😅

これらの他に , を入れることもできて、, のタイミングでポーズ(一時停止)させることができます。

たとえば ATD123,456 という AT コマンドを実行すると、123 に電話をかけ、しばらく待ってから 456 を入力するようなイメージです。

サポートセンターなどに電話をすると自動音声でメニューが読み上げられて番号を入力させるようなことがあると思いますが、そのような場合に使えるのかもしれません。

, でどのくらいの時間ポーズするかは ATS8 コマンドで設定することができます。

ATD は番号の末尾に ; で区切って電話に応答するための A コマンドをつなげることができます。(例) ATD123456789;A これは、ダイヤルアップしてからコールバックしてくるようなシステムで用いるようです。

だいぶ話がそれてしまいました。

ATDATS8 のように、AT のすぐあとにアルファベットがくるコマンドは「基本コマンド」といって、以下のような種類があります。

コマンド 意味
A かかってきた電話に出る
D 電話をかける
E 実行したコマンドをエコーバックするかどうかの設定
H Hook の制御
I 識別情報のリクエス
L モニタースピーカーの音量設定
M モニタースピーカーのモード設定
O オンラインデータ状態に戻る
P パルスダイヤリングを選択
Q 結果コードの抑制
S0 自動応答の設定
S10 自動切断ディレイ
S3 コマンド行終端文字
S4 レスポンスフォーマッティング文字
S5 コマンド行編集文字の設定
S6 ダイヤルトーン検出が無効の場合にダイヤル開始するまでの待ち時間の設定
S7 接続完了までのタイムアウト設定
S8 ダイヤル時に , でポーズする時間の設定
T トーンダイヤリングを選択
V DCE レスポンスフォーマット
X 結果コード選択およびコール進捗モニタリング制御
Z デフォルトコンフィグレーションへのリセット

他にも、AT のすぐあとに & が来る基本コマンドもいくつかあります。

コマンド 意味
&C Circuit 109 (Received line signal detector) の挙動
&D Circuit 108 (Data terminal ready) の挙動
&F 工場出荷時設定にリセット

AT のあとに + が来るのは拡張コマンドと呼ばれ、+ の次の文字で大まかなコマンドのグループが特定され、さらに続く文字列でコマンドとなります。

拡張コマンドの先頭文字 意味
+A 呼制御関連
+C デジタル携帯電話拡張
+D データ圧縮 (ITU-T Rec. V.42 bis)
+E エラー制御 (ITU-T Rec. V.42)
+F FAX (ITU-T Rec. T.30 など)
+G 一般的なコマンド(identity や capabilities など)
+I DTE-DCE インターフェース関連 (ITU-T Rec.v.24 など)
+M 変調方式 (ITU-T Rec. V.32 bis など)
+P PCM DCE コマンド (ITU-T Rec. V.92)
+S Switched or Simultaneous Data Types
+T テスト関連
+V 音声通話拡張
+W 無線拡張

たとえば AT+CGDCONT=1,"IP","soracom.io"+C なので携帯電話回線用の拡張コマンドで、PDP Context と呼ばれるものを定義するためのものです。詳しくは続編で解説することになると思います。

このあと AT コマンドを実際に実行したりして学んでいきたいと思いますが、その前に AT コマンドを実行してみることができる環境を準備することが必要です。

次の記事では、AT コマンド実行環境の準備をしていきます。

date コマンドつらい

タイトルどおりですが、date コマンド色々つらいですよね。 同じ名前の date コマンドが、OS や環境によって、似て非なるものであるという辛さがまず第一に挙げられるかと思います。

macOS 上でデフォルトで使える date コマンドは BSD 版の date です。 BSD 版かどうかは man date で確認できます。

DATE(1)                   BSD General Commands Manual                  DATE(1)

NAME
     date -- display or set date and time

   :

BSD という文字が見えますね。

一方、Ubuntu などの Linux 上では GNU coreutils 版の date コマンドが使えます。(Mac にも homebrew などで GNU coreutils をインストールすることもできますが、話がややこしくなるのでここでは一旦おいておきます)

こちらは date --help で確認してみましょう。

   :
Report date bugs to bug-coreutils@gnu.org
GNU coreutils home page: <http://www.gnu.org/software/coreutils/>
General help using GNU software: <http://www.gnu.org/gethelp/>
For complete documentation, run: info coreutils 'date invocation'

最後の方に GNU coreutils という文字列が見えるはずです。

これらの date コマンドのオプションは、共通なものもあればまったく異なるものもあり、時々ハマリます。 (たとえばローカルの Mac で動いてたシェルスクリプトLinux サーバー上で動かない等)

さらに、Linux の中でも Docker 用に最適化された Alpine などでは GNU coreutils 版ではなく BusyBox 版の date がインストールされています。 この BusyBox 版の date は GNU coreutils 版に似たオプションが使えますが、機能が削減されていたりして、これもまた別物と考えたほうがよさそうです。

BusyBox 版の date かどうかは以下のように確認できます。

$ date --help
BusyBox v1.26.2 (2017-02-21 17:41:44 GMT) multi-call binary.

  :

さて、たとえば単純に現在の日時を表示させるだけならどの date を使っていても、単に date と入力すれば良いだけです。

BSD date

$ date
Fri Jun 16 09:41:37 JST 2017

GNU coreutils date

$ date
Fri Jun 16 00:41:48 UTC 2017

BusyBox date

$ date
Fri Jun 16 00:42:05 UTC 2017

表示されるフォーマットも同じですね。

では、次に年月日だけを指定のフォーマットで表示させてみましょう。

BSD date

$ date +"%Y-%m-%d"
2017-06-16

GNU coreutils date

$ date +"%Y-%m-%d"
2017-06-16

BusyBox date

$ date +"%Y-%m-%d"
2017-06-16

これは同じ引数で同じ結果となります。

では、昨日(現在日時の1日前)の日付を表示させてみましょう。

BSD date

$ date -v-1d
Thu Jun 15 09:50:02 JST 2017

GNU coreutils date

$ date -d '1 day ago'
Thu Jun 15 00:53:07 UTC 2017

BusyBox date

$ date -d "1970.01.01-00:00:$(( $( date +%s ) - $(( 24 * 60 * 60 )) ))"
Thu Jun 15 00:54:03 UTC 2017

BSD 版と GNU coreutils 版で、オプション名(-v と -d)も違いますし、そこに指定する値についてもだいぶポリシーが違いそうに見えます。BusyBox 版は発狂しそうですね。

一応 BusyBox 版を解説してみましょう。 BusyBox 版の -d オプションは GNU coreutils 版のような便利な(human friendly な)指定ができず、自力で計算している感じです。 基本的には Unix time で現在時刻から 1 日分の秒数を引き、それをエポックタイムに足して、1970年1月1日0時0分1497574657秒、みたいな時刻を作ってそれを表示させている感じです。(あと、厳密なことを言うと、うるう秒が挿入された日、タイムゾーンによっては夏時間になった日や夏時間が終わった日あたりにこのコマンドを実行すると、タイミングによっては誤った日時を表示してしまうかもしれません)

他にもタイムゾーンの指定とか、フォーマットの変換のときなどにどの date を使っているのかを勘違いすると全然思ったように動かなかったり、複数の環境で動作するようなスクリプトを書こうとしたりするとこのあたりの統一感のなさの辛さを味わってしまう感じです。

  • 日付の計算(x 日後、とか)
  • 日付のフォーマットの変換

などの date コマンドの機能のサブセットに特化した小さなバイナリを Golang あたりで複数の環境向けに作ると幸せになれるのかな、、、などと考えているところです。

Gnu Coreutils: Core Gnu Utilities

Gnu Coreutils: Core Gnu Utilities

Using BusyBox (Digital Short Cut) (Prentice Hall Open Source Software Development Series)

Using BusyBox (Digital Short Cut) (Prentice Hall Open Source Software Development Series)

Arduino で SORACOM SIM を使ってなるべく安く通信する方法

[追記 2019/09/11]
Wio 3G SORACOM Edition や Wio LTE M1/NB1 といったラインナップも増えて、ますます安くセルラー通信機能付きの Arduino が使えるようになりました。

soracom.jp

soracom.jp

[追記 2019/09/11 おわり]

[追記 2017/10/30, リンク修正 2019/09/11]

SORACOM から Wio LTE JP Versoin が発売されたのでこの記事の内容にしたがって頑張るよりも安く(1万円以下で) Arduino で通信できるようになっちゃいましたね!

soracom.jp

当記事には AT コマンドなど Wio LTE 他のデバイスでも使えたりしそうな情報がまだあると思いますし、Wio LTE では 3G が使えないので SORACOM の Global SIM の LDV を使ったりする場合はまだ当記事の方法で頑張る必要があると思いますのでこのまま残しておきます。

[追記ここまで]


ここで「通信」とは 3G or LTE でのモバイルデータ通信、「なるべく安く」というのは、

の両面で考えていきたいと思います。

といってもランニングコストに関しては、SORACOM SIM を使っている限りはデータ通信量が少なければそんなに高くはならないので、あとは通常の日本向けの SIM を使うか、最近発表された Low Data Volume を使うか、といった感じになると思います。

ということでイニシャルコストの部分ですが、これは概ね、必要なハードウェアを買い揃えるにはいくらかかるか、という問題と等しいと考えて良いでしょう。

Raspberry Pi を使う場合には、Raspberry Pi 本体に USB ドングルを挿せばハードウェア費用はトータルで 1万円〜2万円程度で 3G もしくは LTE で通信できるようになると思います。

しかし Arduino を使う場合は、USB ドングルを単純には使えないので、たとえば 3GIM という製品を使うことになるかと思います。

こちらは便利で使いやすい製品なのですが、お値段のほうもなかなかです。

ハードウェアの部分で悩まずにサクッとプロトタイピングしたいという場合や、本格的な用途で製品化するというような場合は 3GIM は最適な選択肢の一つだと思います。

しかしたとえば予算の制限のある中で少しでも安くプロトタイピングしたいといった要望もあると思います。

そこでなんとかトータルで 1 万円くらいで収まらないかと頑張ってみました。

できればはんだ付けの必要なしに、単純に組み合わせたり接続したりするだけで済ませたかったのですが、どうしてもはんだ付け(しかもとびきり難しいやつ)を回避できませんでしたので、ちょっと一般人向けではなくなってしまいましたが。。。

用意するもの

Arduino M0 ¥3,240(税込み)

Arduino M0

Arduino M0

ハードウェア UART インターフェースを持っていて、なおかつ 3.3V 駆動の Arduino である必要があります。(↓の通信モジュール UC20-G Mini PCIe の UART が 3.3V 駆動なので)
その条件を満たす中で一番安いのが M0 ではないかと思います。

通信モジュール UC20-G Mini PCIe ¥3,980 + 税

https://soracom.jp/products/uc20-g/soracom.jp
Mini PCIe で接続するタイプの通信モジュールです。
ソラコムのコンソールから購入できます。

アンテナ HW-MULTI-GA-RSMA ¥980 + 税

上記モジュールと適合したアンテナです。上記モジュールはこちらのアンテナで技適を取っているのでこのアンテナを使う必要があります。
こちらもソラコムのコンソールから購入できます。

Mini PCIe → USB 変換基板(SIM カードスロット付き) ¥956(税込み)

Arduino は Mini PCIe インターフェースを持っていないので通信モジュールの UART インターフェースを使って通信モジュールを制御したりモバイルデータ通信を行ったりしますが、モジュールへの電源の供給や SIM カードの接続などを考えるとこのような基板を使うと良いと思います。

USB Host Shield ¥2,263(税込)

上記 Mini PCIe → USB 変換基板を Arduino に接続するためのシールドです。単純に USB で電源を供給するだけでは通信モジュールが動作しないようでしたのでこれが必要なようです。

SORACOM Air SIM

SORACOM Air SIMカード(データ通信のみ) (ナノ)

SORACOM Air SIMカード(データ通信のみ) (ナノ)

SORACOM SIM もまだ持っていなければ別途購入する必要があります。Amazon.co.jp で買えば 1,300円ほどです。

データ通信量が少ない方は、Low Data Volume 版を購入すると良いかもしれません。
blog.soracom.jp
こちらはソラコムのコンソールで購入します。(1枚5ドルですが、税と送料を合わせると 12ドルくらいになりますので、初期費用は普通の SIM とそれほど変わらないかもしれません)

(価格はいずれも 2017 年 6 月 1 日現在)

はんだ付けに自信のある方なら、これらを揃えることで Arduino で 3G で通信ができるようになります。
はんだ付けをどうしても回避したいという場合には、USB Host Shield 用のライブラリ*1 に、UC20-G を USB ポート経由で制御できるようになるコードを追加するという方法も考えられます。

ここまでで合計 1 万 2,000 円くらいかと思います。(送料別・消費税は一部別)
Arduino M0(もしくは M0 Pro などの条件を満たすもの) や SORACOM SIM を最初から持っていればその分安くなります。

なお、上記の商品の他に、Arduino を PC に接続したり電源を供給するための USB ケーブルや、ジャンパー線やはんだ付け用の道具一式、もし外で使うならモバイルバッテリーなども必要です。
それらはすでに持っているという場合が多いと思いますのでここでは割愛します。

それから、もし 3G ではなく LTE で通信したければ、UC20-G Mini PCIe の代わりに EC21-J Mini PCIe をご購入ください。あとアンテナももう一本追加する必要があります。合計1,300円ほど高くなりますが、3G の代わりに LTE 対応にできるはずです。

準備(はんだ付け)

さて、モノが揃ったら準備を始めましょう。準備と言っても、メインははんだ付けをすることです。

以下、ちょっと長くなりますが、まず「なぜはんだ付けが必要なのか」を説明します。

Arduino で 3G/LTE 通信モジュールを使おうと思ったら、何らかのインターフェースで Arduino と通信モジュールを接続しなければいけません。
通信モジュールは大抵、USB や UART などのインターフェースを持っています。

今回使おうとしている UC20-G Mini PCIe に搭載されているチップ(UC20-G)の ハードウェアデザイン を見ると、このチップも USB と UART のインターフェースを持っています。

USB インターフェース経由でこのモジュールを使おうと思うと、Arduino の場合は USB Host Shield を用いて接続し、さらにドライバのコードを書かなければいけません。USB Host Shield 用のライブラリには、UC20-G に適合するドライバが標準では含まれていないように思われるためです。(4種類くらい入っているドライバを試しましたが、いずれも動作しませんでした)
ソフトウェアエンジニアとしては UC20-G 用のドライバを書く方向で解決したかったのですが、ドライバを書くための各種情報が少なく、いったん断念しました。

ということで USB インターフェースを使うのは難しそうなので、UART インターフェースを使うことを考えます。

UC20-G の UART インターフェースは、デフォルトでは 115200 bps のボーレートで通信するようです。
一方、Arduino の GPIO ピンを用いて SoftwareSerial で通信しようと思うと、最大通信速度は 115200 bps に対応していない模様です。
AT コマンドを送ればこの設定を変更してもっと低い速度でも通信できるようになるようですが、そもそも接続できなければ設定変更のしようもありません。
他の手段で(たとえば PC などに接続して)AT コマンドを送って UART の速度を変更してから Arduino につなぎ直しても良いのですが、万が一デフォルト値の 115200bps にリセットされてしまった場合などに再度設定し直すという面倒なことをしなければいけなくなります。

それであれば、最初からハードウェア UART インターフェースを搭載していて 115200bps にも問題なく対応できる Arduino を使ったほうが良いだろう、という判断です。

また、UC20-G の UART は 3.3V 駆動なので、いずれにせよ私の持っていた 5V 駆動の Arduino ではレベルシフタなどを使って 3.3V に降圧する必要があります。

ということで、ハードウェア UART インターフェース搭載かつ 3.3V 駆動の Arduino を使い、UC20-G の UART インターフェースに接続することにしました。

あとは、Arduino のハードウェア UART のピンと、UC20-G の UART のピンを接続するだけです。UC20-G のチップは下の図のようなピン配置になっています。
f:id:bearmini:20170601195259p:plain

しかし、実物のモジュールを見ていただくとわかると思うのですが、ピンの露出している部分が非常に小さく、はんだ付けが難しそうに感じました。

一方、Mini PCIe のピン配置は以下のようになっています。
f:id:bearmini:20170601200019p:plain

こちらは Mini PCIe → USB 変換基板のコネクタに嵌合させる部分なのでここにはんだ付けはできません。
したがって Mini PCIe → USB 変換基板のコネクタ側にはんだ付けをすることを考えます。

こちらはピンのピッチが非常に狭く、手作業ではんだ付けするのは至難の業に思われました(実際にとても難しく、何度か挑戦してやっと成功しました)が、万が一失敗して壊してしまうようなことがあっても1,000円程度で買い直すことができるということで多少精神的な障壁が低かったのでこちらにはんだ付けすることにしました。

f:id:bearmini:20170601200404j:plain

決してきれいなはんだ付けではありませんが😅、これでもなんとか動いています。ホットボンドなどで固定&絶縁したほうがよいかもしれません。

すべて組み合わせるとこのような感じになります。

f:id:bearmini:20170601201421j:plain

AT コマンド投入!

さて、これで実際にソフトウェアを動かしてみましょう。

PC で ArduinoIDE を立ち上げて、以下のコードを入力します。

#define UC20UART (Serial1)

void setup() {
  SerialUSB.begin(9600);
  delay(3000);
  SerialUSB.println("Connecting ... ");
  UC20UART.begin(115200);
  while (!UC20UART) {
    ;
  }
  UC20UART.println("AT");

}

void loop() {
  if (UC20UART.available()) {
    SerialUSB.write(UC20UART.read());
  }
  if (SerialUSB.available()) {
    UC20UART.write(SerialUSB.read());
  }
}

これをコンパイルしてアップロードします。
このコードは、PC 側との接続に使っているシリアルポートと、UC20-G との接続に使っているシリアルポートを相互に接続しているようなイメージです。つまり、Arudino IDE の Serial Monitor で入力した文字列は UC20-G に送られ、UC20-G からの応答は Serial Monitor に表示されます。

アップロードが完了したら、Serial Monitor を立ち上げます。

Connecting ...
AT
OK

と表示されていたら成功です!

改行コードを CR+LF を送るように変更し(Both NL & CR を選択)、入力欄から AT コマンドを送るようにしてみましょう。

SORACOM の Global 向けの Plan 01 Low Data Volume の SIM を用いる前提で、以下のようにコマンドを入力すると良いでしょう。

AT+QCFG="roamservice",2,1
AT+COPS=1,2,"44010"2
AT+QICSGP=1,1,"soracom.io","sora","sora",0
AT+QIACT=1

ここまで実行し、すべて OK というレスポンスが返ってきたとすると、コンソール画面上で SIM がオンラインになっているはずです!

f:id:bearmini:20170601203104p:plain

あとは

AT+QIOPEN=1,0,"TCP","harvest.soracom.io",8514
AT+QISEND=0
{"a":1,"b":2}
(Ctrl-z)
AT+QICLOSE=0

とかをスケッチから送信するようにすれば、Harvest にデータを送ることができます。
(Ctrl-z を Serial Monitor から送る方法がわからなかったのでスケッチの中に UC20UART.write(0x1a) と書きました)

Harvest にデータが届いた様子:

f:id:bearmini:20170601203426p:plain

同様に Beam や Funnel も使えそうですね。

AT コマンドのリファレンスは、Quectel のサイトからダウンロードできますので、それぞれどういう意味か確認してみてください。


ということで駆け足になりましたが Arduino で SORACOM SIM をなるべく安く使う方法(ただしはんだ付けができる人に限る)でした!

はんだ付け基礎編

はんだ付け基礎編

SORACOM LoRa Space に「接続ポイント」を登録してみた!

SORACOM の共有型 LoRaWAN 接続サービス「SORACOM LoRa Space」ですが、私の手元にもようやく、ようやくデバイスLoRa Arduino 開発シールド AL-050)が届きまして、さてどんな事をして遊ぼうかなと考えていたところ、SORACOM LoRa Space のホームページ が開設され、LoRaWAN でつながった箇所をみんなで教え合うみたいなことができるようになりましたので早速試してみました。

f:id:bearmini:20170511145518p:plain

ログインして「接続ポイントの登録」画面に行き、説明に従ってセットアップしていくと・・・

f:id:bearmini:20170511152836p:plain

こんな感じでプロットされます。 (↑はソラコム二子玉川オフィスの周辺です。)

セットアップは拍子抜けするほど簡単だったので、皆さんもぜひ試してみてはいかがでしょうか。

ちなみに私の使用した Arduino は STEMTera というもので、Arduino とブレッドボードが一体化したというものすごく便利なものです。

Arduino を使っていると、結局配線したりするのにブレッドボードが必要になるので、この組み合わせは最強ですね。 しかも、うれしいことにこの STEMTera、裏面が LEGO 互換・・・!私の MacBrik Book との相性も抜群です。

↓の共立エレショップさんで買うと Amazon より安いです。

eleshop.jp

これに、GPS モジュールを接続します。

こんな感じです。

f:id:bearmini:20170511151145j:plain

そしてモバイルバッテリーを接続して、いざお出かけ。

f:id:bearmini:20170511151029p:plain

ちなみにこの基板やら配線やらむき出しのブツを持って街中をウロウロしてると通報されかねませんのでそのあたりは自己責任でお願いします。私は自宅から持参したタッパーに入れて持ち歩きました。

Go のプログラムで Windows 上で chmod しようとしただけなのになぜか golang.org/x/sys/windows にバグっぽい挙動を見つけたばかりかなぜかアセンブラを読むハメになった話

何を言ってるかわか(ry

ファイルのパーミッションを変更する chmod コマンド相当の関数は、私の知る限り Golang の標準ライブラリには 2 つあって、しかもそのいずれもが Windows 上では期待したような動作にならないって、みなさん知っていましたか?

まずひとつめ、os.Chmod() 、これは内部的に syscall.Chmod() を呼んでいます。

syscall.Chmod()このあたり に実装があって(本記事執筆時点)、ソースコードをご覧頂いてもわかるように Windows APISetFileAttributes() を呼んでファイルの ReadOnly 属性を設定したり落としたりしているだけです。

魚拓: f:id:bearmini:20170427193959p:plain

なので、os.Chmod(path, 0600) とかやっても、もともと他の人が読み書きできる設定になってるファイルはそのまま他の人が読み書きできる状態が維持されてしまいます。

びっくりしますね。

続いてふたつめ、 func (*os.File) Chmod() です。これは内部的に (*poll.FD) Fchmod() を呼んでいて、そこから syscall.Fchmod() が呼び出されます。こちらの実装は常に EWINDOWS という値を返すようになっています。つまり常にエラーです。

魚拓: f:id:bearmini:20170427194850p:plain

なので、var f *os.Filef に対して f.Chmod(0600) とかやっても、エラーになるだけでファイルのパーミッションは何も変わりません。

このあたりで、「Windows には ACL (Access Control Lists) というものがあったな・・・POSIX/UNIX のシンプルなファイルパーミッションとは根本的に仕組みが違うのかな・・・」ということに気づいちゃいます。

ということで、「じゃあ GolangWindowsACL が操作できるライブラリがあればいいじゃないか。きっとあるはずだ。」と思っておもむろにグーグル先生に聞いてみるわけじゃないですか。

するといくつかライブラリが見つかりますが、私がやりたいことができそうだったのが以下のライブラリです。

github.com

しかも chmod.go という名前の、そのものズバリなファイル(そしてその中に Chmod() 関数)まであるじゃありませんか。

ということでこいつを使ってみます。

すると、ほぼ期待したような動作をしてくれるようです。 「いいじゃないか、こいつを採用だ」と思った時に、一つ問題が見つかりました。

この go-aclChmod() は、エラーが起きたとき(たとえば存在しないファイルに対して呼び出したときなど)に、error を返してくれるのは良いのですが、error.Error() でそのエラーメッセージを取り出すと、常に

The operation completed successfully.

という文字列が取得されるのです。

なぜだ、、、

ということで Deep dive が始まります。

go-aclChmod() は内部で同じパッケージの Apply() を呼んでいます。 Apply() は内部で go-ac/api パッケージの GetNamedSecurityInfo()SetNamedSecurityInfo() を呼び出します。

ここでは GetNamedSecurityInfo() を見ていくことにしましょう。

// https://github.com/hectane/go-acl/blob/master/api/secinfo.go#L44

var (
    procGetNamedSecurityInfoW = advapi32.MustFindProc("GetNamedSecurityInfoW")
    procSetNamedSecurityInfoW = advapi32.MustFindProc("SetNamedSecurityInfoW")
)

// https://msdn.microsoft.com/en-us/library/windows/desktop/aa446645.aspx
func GetNamedSecurityInfo(objectName string, objectType int32, secInfo uint32, owner, group **windows.SID, dacl, sacl, secDesc *windows.Handle) error {
    ret, _, err := procGetNamedSecurityInfoW.Call(
        uintptr(unsafe.Pointer(windows.StringToUTF16Ptr(objectName))),
        uintptr(objectType),
        uintptr(secInfo),
        uintptr(unsafe.Pointer(owner)),
        uintptr(unsafe.Pointer(group)),
        uintptr(unsafe.Pointer(dacl)),
        uintptr(unsafe.Pointer(sacl)),
        uintptr(unsafe.Pointer(secDesc)),
    )
    if ret != 0 {
        return err
    }
    return nil
}

advapi32.dll からロードした GetNamedSecurityInfoW() Windows API を呼んでいます。

advapi32 は windows.MustLoadDLL() でロードした windows.DLL 型なので、advapi32.MustFindProc() でロードした procGetNamedSecurityInfoWwindows.Proc 型です。

procGetNamedSecurityInfoW.Call() の 3 番目の戻り値に問題がありそうです。

windows.ProcCall() 関数は以下のような定義になっています。

// https://github.com/golang/sys/blob/master/windows/dll_windows.go#L126

func (p *Proc) Call(a ...uintptr) (r1, r2 uintptr, lastErr error) {
    switch len(a) {
    case 0:
        return syscall.Syscall(p.Addr(), uintptr(len(a)), 0, 0, 0)
    case 1:
        return syscall.Syscall(p.Addr(), uintptr(len(a)), a[0], 0, 0)
    case 2:
        return syscall.Syscall(p.Addr(), uintptr(len(a)), a[0], a[1], 0)

  :

syscall.Syscall() を呼んでいますね。

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/syscall_windows.go#L156

//go:linkname syscall_Syscall syscall.Syscall
//go:nosplit
func syscall_Syscall(fn, nargs, a1, a2, a3 uintptr) (r1, r2, err uintptr) {
    c := &getg().m.syscall
    c.fn = fn
    c.n = nargs
    c.args = uintptr(noescape(unsafe.Pointer(&a1)))
    cgocall(asmstdcallAddr, unsafe.Pointer(c))
    return c.r1, c.r2, c.err
}

この 3 番目の戻り値 c.err が怪しいです。 ちなみに、ここでは関数シグネチャでは 3 番目の戻り値の型は uintptr になっていますが、この関数の宣言部では以下のように syscall.Errno になっています。

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/syscall/dll_windows.go#L24

// Implemented in ../runtime/syscall_windows.go.
func Syscall(trap, nargs, a1, a2, a3 uintptr) (r1, r2 uintptr, err Errno)

さて、syscall_Syscall() の中に戻って見ていきます。

この3番目の戻り値 c.err が設定されているのは、おそらく cgocall() の中でしょう。

少し長いですが cgocall() 関数の全体を以下に掲載します。

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/cgocall.go#L92

// Call from Go to C.
//go:nosplit
func cgocall(fn, arg unsafe.Pointer) int32 {
    if !iscgo && GOOS != "solaris" && GOOS != "windows" {
        throw("cgocall unavailable")
    }

    if fn == nil {
        throw("cgocall nil")
    }

    if raceenabled {
        racereleasemerge(unsafe.Pointer(&racecgosync))
    }

    // Lock g to m to ensure we stay on the same stack if we do a
    // cgo callback. In case of panic, unwindm calls endcgo.
    lockOSThread()
    mp := getg().m
    mp.ncgocall++
    mp.ncgo++
    mp.incgo = true

    // Reset traceback.
    mp.cgoCallers[0] = 0

    // Announce we are entering a system call
    // so that the scheduler knows to create another
    // M to run goroutines while we are in the
    // foreign code.
    //
    // The call to asmcgocall is guaranteed not to
    // grow the stack and does not allocate memory,
    // so it is safe to call while "in a system call", outside
    // the $GOMAXPROCS accounting.
    //
    // fn may call back into Go code, in which case we'll exit the
    // "system call", run the Go code (which may grow the stack),
    // and then re-enter the "system call" reusing the PC and SP
    // saved by entersyscall here.
    entersyscall(0)
    errno := asmcgocall(fn, arg)
    exitsyscall(0)

    // From the garbage collector's perspective, time can move
    // backwards in the sequence above. If there's a callback into
    // Go code, GC will see this function at the call to
    // asmcgocall. When the Go call later returns to C, the
    // syscall PC/SP is rolled back and the GC sees this function
    // back at the call to entersyscall. Normally, fn and arg
    // would be live at entersyscall and dead at asmcgocall, so if
    // time moved backwards, GC would see these arguments as dead
    // and then live. Prevent these undead arguments from crashing
    // GC by forcing them to stay live across this time warp.
    KeepAlive(fn)
    KeepAlive(arg)

    endcgo(mp)
    return errno
}

直接 c.err に何か値を設定しているところはないようです。

 errno := asmcgocall(fn, arg)

の行が怪しいですね。 ここで fn は、cgocall() を呼び出す際に第一引数に指定された asmstdcallAddr です。

asmstdcallAddr は以下のように定義されていて、

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/os_windows.go#L157

var asmstdcallAddr unsafe.Pointer

以下のように初期化されています。

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/os_windows.go#L263
func osinit() {
    asmstdcallAddr = unsafe.Pointer(funcPC(asmstdcall))

asmstdcall という関数のアドレスのようです。

asmstdcall

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/os_windows.go#L153

// Call a Windows function with stdcall conventions,
// and switch to os stack during the call.
func asmstdcall(fn unsafe.Pointer)

というように宣言だけされていますが、実体はアセンブラで記述されています。 名前の通り、stdcall 呼び出し規約に則って関数を呼び出す処理がアセンブラで記述されているようです。

以下は 64bit windows 環境用のアセンブリコードです。

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/sys_windows_amd64.s#L13

// void runtime·asmstdcall(void *c);
TEXT runtime·asmstdcall(SB),NOSPLIT|NOFRAME,$0
    // asmcgocall will put first argument into CX.
    PUSHQ   CX          // save for later
    MOVQ    libcall_fn(CX), AX
    MOVQ    libcall_args(CX), SI
    MOVQ    libcall_n(CX), CX

    // SetLastError(0).
    // https://en.wikipedia.org/wiki/Win32_Thread_Information_Block
    // http://www.geoffchappell.com/studies/windows/win32/ntdll/structs/teb/index.htm
    // http://shitwefoundout.com/wiki/Win32_Thread_Environment_Block
    MOVQ    0x30(GS), DI   //* DI = _NT_TIB.Self (where GS == TIB: Thread Information Block)
    MOVL    $0, 0x68(DI)   //* _TEB.LastErrorValue = 0

    SUBQ    $(maxargs*8), SP    // room for args

    // Fast version, do not store args on the stack.
    CMPL    CX, $4
    JLE loadregs

    // Check we have enough room for args.
    CMPL    CX, $maxargs
    JLE 2(PC)
    INT $3          // not enough room -> crash

    // Copy args to the stack.
    MOVQ    SP, DI
    CLD
    REP; MOVSQ
    MOVQ    SP, SI

loadregs:
    // Load first 4 args into correspondent registers.
    MOVQ    0(SI), CX
    MOVQ    8(SI), DX
    MOVQ    16(SI), R8
    MOVQ    24(SI), R9
    // Floating point arguments are passed in the XMM
    // registers. Set them here in case any of the arguments
    // are floating point values. For details see
    //  https://msdn.microsoft.com/en-us/library/zthk2dkh.aspx
    MOVQ    CX, X0
    MOVQ    DX, X1
    MOVQ    R8, X2
    MOVQ    R9, X3

    // Call stdcall function.
    CALL    AX

    ADDQ    $(maxargs*8), SP

    // Return result.
    POPQ    CX
    MOVQ    AX, libcall_r1(CX)

    // GetLastError().
    MOVQ    0x30(GS), DI          //* DI = _NT_TIB.Self
    MOVL    0x68(DI), AX          //* AX = _TEB.LastErrorValue
    MOVQ    AX, libcall_err(CX)

    RET

このアセンブラは Go の処理系特有の記法で、この文法などについての最も詳しい説明は以下のリンク先のようです。

A Manual for the Plan 9 assembler

Rob Pike 先生が自ら書かれた説明のようですね。

多少特殊な記法はありますが、Intel 系のアセンブラに慣れた人なら特に問題なく読めるでしょう。

この最後の

 // GetLastError().
    MOVQ    0x30(GS), DI          //* DI = _NT_TIB.Self
    MOVL    0x68(DI), AX          //* AX = _TEB.LastErrorValue
    MOVQ    AX, libcall_err(CX)

の部分です。

//* で始まるコメントは私が追加したものです。

早い話が、Thread Information Block (TIB) またの名を Thread Environment Block (TEB) の LastErrorValue を取り出して、libcall.err に入れています。

libcall というのは↓のことで、

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/runtime2.go#L295

type libcall struct {
    fn   uintptr
    n    uintptr // number of parameters
    args uintptr // parameters
    r1   uintptr // return values
    r2   uintptr
    err  uintptr // error number
}

これは m のメンバです。

type m struct {
  :
  
    syscall   libcall // stores syscall parameters on windows

  :
}

mg のメンバです。

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/runtime2.go#L320

type g struct {
  :
  
    m              *m      // current m; offset known to arm liblink

  :

m とか g とかについては ↓ このあたりに良い説明があります。

niconegoto.hatenadiary.jp

要は、

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/runtime/syscall_windows.go#L156

//go:linkname syscall_Syscall syscall.Syscall
//go:nosplit
func syscall_Syscall(fn, nargs, a1, a2, a3 uintptr) (r1, r2, err uintptr) {
    c := &getg().m.syscall

この cgmsyscall すなわち libcall 型なので先程のアセンブラ

 // GetLastError().
    MOVQ    0x30(GS), DI          //* DI = _NT_TIB.Self
    MOVL    0x68(DI), AX          //* AX = _TEB.LastErrorValue
    MOVQ    AX, libcall_err(CX)

では c.errLastError を入れてますよ、ということになります。

ちなみに TIB のメモリレイアウトに関しては以下のリンク先を参考にしました。

Win32 Thread Environment Block - Shit we found out

さて、そういうわけで procGetNamedSecurityInfoW.Call() の第 3 戻り値には LastError が入っていそうなものです。

Errno 型なので、以下の関数によって string に変換されるはずです。

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/syscall/syscall_windows.go#L90

func (e Errno) Error() string {
    // deal with special go errors
    idx := int(e - APPLICATION_ERROR)
    if 0 <= idx && idx < len(errors) {
        return errors[idx]
    }
    // ask windows for the remaining errors
    var flags uint32 = FORMAT_MESSAGE_FROM_SYSTEM | FORMAT_MESSAGE_ARGUMENT_ARRAY | FORMAT_MESSAGE_IGNORE_INSERTS
    b := make([]uint16, 300)
    n, err := formatMessage(flags, 0, uint32(e), langid(LANG_ENGLISH, SUBLANG_ENGLISH_US), b, nil)
    if err != nil {
        n, err = formatMessage(flags, 0, uint32(e), 0, b, nil)
        if err != nil {
            return "winapi error #" + itoa(int(e))
        }
    }
    // trim terminating \r and \n
    for ; n > 0 && (b[n-1] == '\n' || b[n-1] == '\r'); n-- {
    }
    return string(utf16.Decode(b[:n]))
}

事前に定義済みの errors の中には “The operation completed successfully” という文字列は見つかりませんでしたので、おそらく formatMessage() 関数がその文言を常に返してきてしまっているという状況なのでしょう。

formatMessage()

// https://github.com/golang/go/blob/master/src/syscall/syscall_windows.go#L144

//sys   formatMessage(flags uint32, msgsrc uintptr, msgid uint32, langid uint32, buf []uint16, args *byte) (n uint32, err error) = FormatMessageW

という感じで Windows APIFormatMessageW を呼び出しているだけです。

ということは e が 0 なのか、、、

第 1 戻り値はちゃんとエラーの理由を表す値になっているようなので、もしかしたら GetNamedSecurityInfoW() Windows API は LastError を設定しない君なのでは?という可能性に気づき、やる気が萎えたのでここでおしまい。

ということでタイトルでは「バグっぽい」と煽り気味に書きましたが、Golang のライブラリのバグではなくて、Windows の仕様なのかもしれません。

リモートホスト上のパケットキャプチャをリアルタイムに手元のマシンの Wireshark で見る方法

ワンライナーで行けちゃいます😁

wireshark -k -i <(ssh user@host "tcpdump -U -n -w - -i eth0 'not port 22'")

しかもリモートホスト側で何かしら特別な準備とかが不要なので非常にお気楽・お手軽です。

前提条件

解説

上記ワンライナーを実行すると、以下の図のように ssh で接続したホスト上で tcpdump コマンドを実行してパケットをキャプチャし、そのパケットキャプチャを手元の Wireshark でリアルタイムに見ることができるようになります。

f:id:bearmini:20170216154859p:plain Icons for a laptop and a server are designed by Gregor Cresnar from Flaticon

ワンライナーは比較的短いので難しくないと思いますが念のため解説します。

まず wireshark コマンドで Wireshark を起動しています。

オプションの -k はすぐにキャプチャを開始する、という意味です。 -i は入力インターフェースの指定ですね。この場合は <( ... ) で指定されるコマンドの出力を Wireshark が読み込むという動きになります。 <( ... )bash の記法です。bash を用いていない場合は -i - と pipe を組み合わせて

ssh user@host "tcpdump -U -n -w - -i eth0 'not port 22'" | wireshark -k -i -

という感じにすればよいでしょう。(末尾の - に注意)

続いて ssh 部分に入っていきます。

user@host はキャプチャを取りたい目的のリモートホスト(とそれにログインするためのユーザー)の指定です。 公開鍵認証をする場合や踏み台サーバー経由でのログインをする場合などはここに引数を追加するか、~/.ssh/config に指定しておくとよいでしょう。

"" で囲まれた部分がリモートホスト上で実行されます。 つまり、tcpdump がいろいろ引数を指定された状態で起動されます。

tcpdump コマンドに渡されている引数を一つずつ見てみましょう。

-U は 1 パケットごとに出力ファイルに出力するように指定するオプションです。(これを指定しないと tcpdump にバッファリングされてしまい、リアルタイム性が損なわれると思われます。)

-n は IP アドレスをホスト名に逆引きする処理を抑制するオプションです。リモートホスト側で名前解決をしてしまうとパケットキャプチャにそれが混じってしまうので DNS クエリをしないようにこれを指定しています。

-w - は標準出力へ出力することを指定するオプションです。リモートホスト上で tcpdump が標準出力にパケットの情報を出力すると、それが ssh 経由でローカルホストの標準出力に出力されます。そしてその標準出力を wireshark に食わせているというわけです。

-i eth0tcpdump がパケットをキャプチャするインターフェース名の指定です。適宜他の名前に変えましょう。

'not port 22'tcpdump でキャプチャするパケットを選別するためのフィルタの指定。ここでは、パケットキャプチャの転送に使われている 22 番ポートのパケットはキャプチャしないように指定しています。

bash スクリプトでヒアドキュメントを変数に格納したいけどヒアドキュメントの中にカッコがあってエラーになってしまう場合の対策

最近ブログの記事タイトルが長い気がするのでなんとか短めに抑えたいのですがなんとかならないものでしょうかね。

さて、昨年あたりから shellcheck というツールを使ってシェルスクリプトの lint をするようにしたので自分の shell 力が少し上がった気がしているのですが、以下のようなありがちなコードの解決策が覚えられそうになかったのでメモしておきます。

やりたいことは、read コマンドを使ってユーザーに複数の選択肢を提示して選んでもらうというとてもシンプルな、よくありがちなことだと思います。

read コマンドには -p オプションがあり、ユーザーに対して何かのプロンプトを提示することができます。

そこで

read -r -p "$prompt" num

という感じでプロンプトを表示しつつ num という名前の変数に選択されたの番号を取得することを考えます。

prompt 変数にはメッセージを入れておきます。

たとえば、以下のようなプロンプトを表示させたい場合:

1) hoge
2) fuga
3) piyo

choose a number (1-3) ?  

変数 prompt には定石パターンとして以下のように $( ) と cat とヒアドキュメントを使って、

prompt=$(cat <<EOD
1) hoge
2) fuga
3) piyo

choose a number (1-3) ?
EOD
)

という感じにすると思います。しかしこれは実は問題があります。 ヒアドキュメントの中に半角閉じカッコが入っていると、そこで $( が閉じられてしまって、その後シンタックスエラーなどが起こってしまうのです。

なお、` 〜 ` を使うと閉じカッコの問題は起こらないかもしれませんが、

prompt=`cat <<EOD
       ^-- SC2006: Use $(..) instead of legacy `..`.

というふうに shellcheck に警告されてしまいます。 shellcheck の説明 を読むと、` 〜 ` には POSIX で未定義動作があったり、独自のエスケープモードに入ってびっくりするような結果になったり、ネストさせるのが難しかったり、といったような弊害があるとのことです。

というわけで $( ) を使って以下のように書いてみるとやはり実行時にエラーになってしまいます。

$ cat paren.sh
#!/bin/bash

prompt=$(cat <<EOD
1) hoge
2) fuga
3) piyo

choose a number (1-3) ?
EOD
)

read -r -p "$prompt" num

echo "You chose $num"

$ bash paren.sh
paren.sh: line 4: hoge: command not found
paren.sh: line 5: syntax error near unexpected token `)'
paren.sh: line 5: `2) fuga'

これを回避するには、関数 を使って以下のようにします。

function get-msg() {
    cat <<EOD
1) hoge
2) fuga
3) piyo

choose a number (1-3) ?
EOD
}

prompt=$( get-msg )

read -r -p "$prompt" num

echo "You chose $num"

get-msg 関数(名前はなんでも良いです)が cat とヒアドキュメントを使って問題となる閉じカッコを含む文字列を表示します。 それを $( ) の中で 呼び出すことで文字列を変数に格納します。 これにより、$( ) の中に閉じカッコが現れなくなるので問題が起こらなくなるというわけです。

[改訂新版] シェルスクリプト基本リファレンス  ??#!/bin/shで、ここまでできる (WEB+DB PRESS plus)

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入門bash 第3版

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bashクックブック

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ssh の ProxyCommand を .ssh/config に書かずにコマンドライン引数で指定する方法

ssh で踏み台ホスト経由で目的のサーバーに到達したいということはよくあると思います。

たくさんの先人たちが ~/.ssh/config に書くべき内容について書き残してくれていますのでここでは特に詳しくは触れません。

基本的には ProxyCommand を使って、踏み台サーバーから目的のサーバーへと接続するような設定をすればよいのですが、この設定を ~/.ssh/config に書かずに、コマンドライン引数のみで実現できないかと思って調べてみました。

なぜそのように思ったかというと、たとえばあるサーバーに踏み台経由でログインするという処理をスクリプトにしてチームのメンバーに配布して使ってもらうような場合に、「まず .ssh/config を編集して・・・」というステップが入ってくるとそれだけで敷居が高くなってしまったり、間違いが入り込んでしまう余地が多くなってしまいます。 また、接続先の数が増えるとそのたびに編集してもらう必要が出てきてしまいますし、クラウドのようにホストのアドレスが動的に変わるような環境だと別途 API などによって IP アドレスを取得してくる必要があり、そもそも .ssh/config に static な設定を書きづらいということもあるかもしれません。

「単にスクリプトを実行すれば目的のサーバーに到達できる」というシンプルさを保つためには、可能であればスクリプトだけで完結する方法が望ましいわけです。

スクリプトで ~/.ssh/config を書き換えるという少々強引な手法も考えられますが、これは余計な問題を引き起こしそうな気がするのでちょっと避けたいところです。

そんなわけで man ssh を眺めていたところ、-o というオプションを発見しました。これは、~/.ssh/config に書くことができる内容をそのままコマンドライン引数として渡すことができるというオプションです。つまり、-o ProxyCommand=〜〜〜 というようなオプションを ssh コマンドに渡すことができそうです。

たとえば接続元ホスト(local) から踏み台サーバー (gateway) 経由で接続できるようなリモートサーバー (remote) があって、以下のように ~/.ssh/config に書いた場合、

Host gateway
  Hostname gateway.example.com
  User gateway-user
  Port 8022
  IdentityFile ~/.ssh/id_rsa_gateway

Host remote
  Hostname 10.11.12.13
  User remote-user
  Port 1022
  IdentityFile ~/.ssh/id_rsa_remote
  ProxyCommand ssh gateway -W %h:%p

ssh remote とするだけでリモートサーバーにログインできます。 (IdentityFile はどちらも接続元のホスト (local) に置いておきます)

これと同じことをコマンドライン引数だけで実現すると以下のようになります。

ssh -o ProxyCommand='ssh -i ~/.ssh/id_rsa_gateway -p 8022 gateway-user@gateway.example.com -W 10.11.12.13:1022' -i ~/.ssh/id_rsa_remote -p 1022 remote-user@10.11.12.13

ProxyCommand オプションには、gateway を介して remote ホストの ssh のポートまで到達するための設定を書き、その後 remote ホストにログインするための設定を書くようなイメージですね。 (もちろんオプションの順番はこの通りに並べる必要はありませんが、このようにすることで見通しが良くなるような気がします)

上記のコマンド例は私の実際のスクリプトから抜き出してそれをここに貼ることのできるように書き換えていますのでその途中で間違いなどが入り込んでしまっているかもしれません。何かお気づきになったらお知らせください。

実用SSH 第2版―セキュアシェル徹底活用ガイド

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OpenSSH[実践]入門 (Software Design plus)

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git コマンドを alias してるときにも補完を効かせる方法

プログラマなら呼吸をするように git コマンドを使うと思うので、git っていう 3 文字でさえ長過ぎますよね。
ということでみなさま .bashrc などで

alias g='git'

みたいなことをしてると思いますが、この場合 git-completion.bash による補完が効かなくなってしまうという弊害がありました。

とはいえ、~/.gitconfig にサブコマンドの短縮形を大量に登録していると思いますし、ファイル名の補完は標準で効くので、不便なのはブランチ名の補完や滅多に使わないサブコマンドの補完など一部の作業に限られていました。

でもこれを解決する方法がありました。

.bashrc などで git-completion.bash を source した後に以下のように __git_complete 関数を実行しましょう。

source /Applications/Xcode.app/Contents/Developer/usr/share/git-core/git-completion.bash
__git_complete g __git_main

私は Mac を使っていて Xcode に含まれている git-completion.bash を使っていますが、環境によって git-completion.bash のパスは異なると思います。

また、git のバージョンが変わったりすると関数名が変わったりするかもしれませんがその際は頑張って git-completion.bash を解読して、どの関数を呼べばよいか探しましょう。

これで .bashrc を source し直したら g コマンドでも補完が効くようになっています。

以上、自分用メモでした。